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【そうだ、ジョウト行こう】

「んー!着いた!」
「あっという間でしたね」
 
 降りついた街はコガネ。一行はリニアから降りると車内で話した老夫婦に別れを告げ、次いで折り返しヤマブキへと向かうリニアを見送った。写真撮影はぬかりなくばっちりだ。ライモンへと帰った暁には必ず写真を共有しようとお互いに固く約束した。
 さて。あとは予約しておいたエンジュの旅館へと向かうだけである。さすがにイッシュからの旅路は時間も体力も消耗した。外へ出れば、コガネの街はその名 の通り夕陽によって黄金色に染まり、大変美しかった。その景観に一同はほう、と声をもらしたが、その顔からは若干の疲れが伺える。コガネにも観光スポット はいくつかあるが、今日はやめようという暗黙の了解のもと、一同はクラウドの案内で旅館へと向かった。
 
 旅館は大変趣のある建物で、建築は木造。イッシュでは見られない造りをしており、ついつい見とれてしまう。鉄骨やコンクリートで作られたものの多いライモンと比べ、木造建築が主なエンジュはひどく温かに思えた。
 ついつい旅館の外観に見とれてしまった面々に、クラウドはずっと立ってると夜になってまうで、と笑った。
 一行の代表としてサブウェイマスターの二人がカウンターでチェックインの手続きをすませると、担当だと言う仲居さんに連れられて、数日間過ごすこととなる部屋へと通された。
 てっきり何組かに別れさせられるかと思ったが、実際に通されたのは10人くらいは軽く寝れるであろう大部屋だった。引き戸を開け、玄関口となる敷居をま たげば両脇に洗面所とトイレがあり、その先のふすまを開ければ広々とした畳のまだ。またその奥にはこぢんまりとした洋風のスペースがあり、小さなテーブル と椅子が置いてあった。そのすぐそばにある窓から見える眺めは素晴らしく、紅葉で色を変えた木々が夕陽を浴びて煌めいていた。
 一同は歓声を上げつつ部屋に上がり込むと、思い思いの場所に落ち着いた。
 それを見計らって、仲居さんが声をかける。夕食は一時間後に部屋に持ってくるということ、大浴場の場所や使い方、売店の営業時間など、一通り親切丁寧に説明してくれた。また夜には近くの舞台で舞妓さんの枚が見られるらしく、そちらを是非にと勧められた。
 ではごゆっくり、と笑み、しとやかに退散する彼女に一同はありがとうございますと頭を下げた。
 
 さて。と人数分用意された座椅子の内の一つに腰かけていたノボリは、立ち上がると真っ直ぐにクローゼットへと向かい、浴衣とタオル、巾着を取り出した。それを見て、すぐに察したクダリもノボリの元へと駆けよる。
 
「ぼくもいく!」
 
「ボス達どこへ行くんですか?」
 
 現状の飲み込めないカズマサが首をかしげた。
 それに対して、ノボリは何やら嬉しそうに答える。
 
「夕食まではまだ時間があるようですから大浴場にでも行こうかと。皆さんも一緒に行きませんか」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 結局、全員揃って浴場へ行くことになった。浴衣を着、備え付けの巾着を持ち歩く姿はお互いに新鮮で、自然と足が軽くなる。クダリなんかは上機嫌で、右手に持つ巾着をぶんぶんと振り回しながら、左半身はノボリにぴたりとくっつけて腕を取り鼻歌を歌っていた。
 男湯と書かれた暖簾をくぐれば、香るのは温泉独特の香りと檜の香り。程良い湿気を含んだ空気に、一同は思わず大きく息を吸う。
 
「なんだかこれぞ!って感じしますね」
 
 カズマサが感嘆の声を上げ、その隣でジャッキーが頷く。
 
「初めて見ました」
 
 そんな二人に呆れた様な声がかかった。トトメスとラムセスだ。
 
「そんなとこで突っ立ってると閉め出しちゃうよ?」
 
「見とれる気持ちも分かるがここは温泉。入るのを優先すべきだろうさ。夕飯の時間になってしまうよ」
 
 見れば、二人はいつの間にやら浴衣を脱ぎ、浴場への引き戸を開けたところだった。何とも素早い行動力である。二人も負けじと後を追った。
 からりと引き戸を開ければ湿った空気と独特の硫黄の匂いが二人を包む。どうやら脱衣所でゆっくりとしていたのはカズマサとジャッキーの二人だけだったら しい。すでに彼ら以外のメンバーは身体も流し終えた様で、皆思い思いに湯船につかり日頃の疲れを癒すように身体を伸ばしていた。
 夕食前の時間のせいか他の宿泊客は見当たらず、温泉内にいるのは自分たちだけだ。クダリなんかは広いとはしゃいで泳いでいた。しかしそれに気付いたノボ リに制止の為に捕獲され、湯船に高い水しぶきが上がった。気の毒な事にその隣でとばっちりを受け、もろにお湯をかぶってしまったクラウドが激しく咳き込ん でいる。そしてその様子に気づかずクダリに説教を始めるノボリ。一連の流れを見ていたトトメスとラムセスが少し離れたところから爆笑していた。シンゲンと キャメロンの二人だけがクラウドのもとへとやって来て、呆れ顔でノボリとクダリの二人を横目に見ながら彼の背をさすったりタオルを差し出したりしていた。
 なんとも騒がしい入浴風景である。本当に他の宿泊客がいなくてよかった。
 
 カズマサとジャッキーが汗を流し湯船へ合流すると、これ幸いとばかりにノボリから逃れたクダリが二人の横にばしゃりと腰を下ろした。
 
「どう?楽しい?」
 
 白のボスが一番楽しそうですけど、という言葉は呑み込んで、二人はその言葉に頷く。
 
「初めてバトルサブウェイから外に出ましたけど、外の世界も悪くはないですね」
 
「俺はバトルサブウェイに来てまだ一年もたってないですけど、まさか一緒に連れて行ってもらえるとは思っていなかったので嬉しいです」
 
 二人の言葉を聞いて、クダリは満足そうに笑った。
 
「ところで、こんないい旅館よく見つけましたね。ガイドブックとか白のボスが休憩室に持ち込んだ時に一緒に見てましたけどそれには載ってなかった気がします」
 
 ああ、それは、とクダリが言いかけて、後からやってきたノボリが続きを拾った。
 
「とある友人の伝手で教えていただいたのでございます」
 
「ボスたち、この地方にご友人がいるんですか?」
 
 ジャッキーが意外そうに問いかけた。彼自身バトルサブウェイから出たことはなかったが、それに劣らず、サブウェイマスターの二人が遠出をしたなんていう話は聞いたことが無かったからだ。
 
「んーん。正確には友人の知り合いってところかな。イッシュにいる友人の同業者がこっちの地方にいるらしくてね」
 
「友人が仕事の会合か何かでジョウトを訪れた際にこの旅館を使用したそうなんです。なんでもその同業者である知り合いの方がここの経営者とかで」
 
「僕たちがジョウトに旅行に行くって言ったらぜひここにしろって譲らなかったもんね」
 
「しかしここにして正解でしたね。大部屋完備ですし、何よりきれいです。近隣施設も観光には困りませんし」
 
 そう満足げに語るノボリを見ながらカズマサは、やっぱり仕事できる人間の知り合いっていうのはすごい人が集まるんだな、なんて考えていた。
 
「ところで、そのボスたちのお友達ってどういう関係なんですか?こんなすごい旅館の経営者と同業ってどこかのご令嬢かなんかですか?」
 
「まっさか!違うちがう!そもそもその知り合いの人って旅館経営の方が副業で本業はジムリーダーらしいから!」
 
「まぁ、黙っていればカミツレ様もご令嬢に見えなくもな……いや、そんなことはないですね」
 
「うん。それは無い」
 
 トレーナーズスクール時代、共に過ごしてきた彼女の破天荒振りを振り返り、二人は揃って首を振った。
 
 
 
 
 
 
 
「へっ、くし!」
 
 イッシュのとある楽屋の一室にて。
 
「カミツレさん大丈夫ですか?こんな季節ですし、風邪には気をつけないと」
 
 次の撮影に備えて、ヘアメイクをしていた担当者がそう心配そうに問うた。
 
「平気よ、風邪じゃないわ」
 
 カミツレは鼻をすすりながら恨めしげに虚空を睨む。
 
(絶対に誰かが噂してるんだわ)
 
 
 
 
 
 


「ええええええっ!ボスたちってあのカミツレさんと知り合いなんですか!クールアンドビューティーの!」
 
 カズマサの驚きように、むしろノボリとクダリの方がそんなに驚くことだろうか、といった風にきょとりとしていた。
 四人の会話を聞いていた他のメンバーたちもなんだそんなことか、と笑った。
 
「なんやカズマサ、知らんかったんか。ボスたちのスクール時代の幼馴染やで。あのお人は」
 
「まぁ、カズマサが来てからまだあの人来てないしねぇ、無理もないか」
 
「時々バトルサブウェイにも来てるのさ」
 
 戦ったこともあるよ、と古株メンバーは事も何気に言う。
 
「そうなんですか!うわー、羨ましいなぁ。あのカミツレさんですよね、うわー」
 
 俺も本物見たい!と息巻くカズマサにトトメスが笑顔で一言。
 
「サブウェイのバトル参戦は電車に遅れずに乗れるようになったらね」
 
 それまで通常業務だから。と続くラムセスの言葉に迷子常習犯であるカズマサは涙交じりにちくしょー!と叫んだ。湯殿に声が反響してむなしく響き渡った。
 

2013/02/27

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