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【そうだ、ジョウト行こう】

 落ち葉の舞う中、クダリはやっと先を行く一行に追い付いた。街中と言えど、秋ともなれば葉は風に吹かれて落ち、木枯らしに巻き込まれて小さく渦を作る。
 周辺の住人が掃除したのだろう、そこかしこに落ち葉の山ができていた。

「これからどうするの?」

 クダリは先をいくクラウドの背中へ呼び掛ける。

「お待ちかねのリニアに乗るんや。ジョウトへ行くにはここヤマブキシティから出てるリニアに乗る以外は行けんからな」

 それを聞いた周りの者たちは歓声をあげた。何せここに集うのは誰もが生粋の鉄道好き。普段は固い表情のノボリも、クダリと共に喜ぶその表情は柔らかい。

 そんな一行を尻目に、クラウドは辺りを見回す。

「さて、と。どこやったかな…」

「アレ?クラウドサン詳シインジャナカッタッケ?」

 そんなシンゲンの問いにいやぁ、と頭をかくクラウド。

「実はわしギアステに就職してからこっちに帰っとらんからそんな詳しい訳じゃないんや。リニアができたのもわりと最近のことやしな」

「へー、そうだったんだ」

「では、これだけ広い街ですし、どなたかに伺った方が早いかもしれませんね」

 フレンドリーショップの前で一行は立ち止まる。ノボリはきょろりと辺りを見回した。

「何か探し物?」

 彼らの声に割って入るようにかけられた声は女の子のもの。一行はそちらを振り向いた。
 年はトウコと同じくらいだろうか。どこか勝ち気な雰囲気を持ちつつ、しかし脇に抱えられたピッピ人形が幼い印象を与えさせる。

「貴方は?」

「あたし?あたしはちまたでちょっとは名の知れたモノマネむすめ!…といっても最近は休業中だけどね。お兄さんたちは?こんな大所帯で何してるの?」

「ぼくたちはジョウトに旅行に行くところ!リニアに乗りたいんだけど駅がわからなくて」

 それを聞いてモノマネむすめと名乗った少女はぽんと手を打つ。

「よくいるんだよね、この街広いから。いいよ、案内したげる!」










「ちょっと前まではね、ここはなーんも無かったんだよ。おっきなビルとシルフカンパニーって会社があるくらいで。となりのタマムシシティみたいにデパートとかゲームセンターがあるわけでなし。でもコガネと繋ぐリニアができてから観光客がぐっと増えたんだよね。」

 街を歩きながら彼女はそう説明する。確かに見渡す限り高い建物が多く木々も街を囲うように生えているだけで、見た目だけで言えばどこかブラックシティを 彷彿とさせるものがあった。彼女の言う通り、人を呼び込む観光地としては活躍しそうにない。どちらかというとビジネス街である。

「へぇー…」

 
 
 クダリは興味津津だ。これは他のメンバーにも言えることだが、長いことライモンを離れることが無かったために、遠い地の話には非常に興味深いものがある。

 
「ライモンも結構大きな街だけど、あそこは施設も充実してるから観光客は多いなぁ」

「ライモン?」

 ぽつりとつぶやいたクダリの言葉に対して首を傾げた少女のために、ノボリが補足する。

「私たちはイッシュ地方のライモンシティというところから来たのです。我々の街は、こことは真逆に観光で成り立っている街なのですよ」

「イッシュ!ずいぶんと遠いとこから来たんだ!最近カントーやジョウトとも特産品のやりとりしてるよね!私ヒウンアイス食べてみたいんだぁ」

 それを聞いて二人はくすりと笑った。

「ではぜひ機会がありましたらイッシュにいらしてくださいまし」

「そのときはぼくらが案内するよ!」

「ほんと!?ちょっとまじめに考えてみようかな…」

 そう言って彼女はピッピ人形を抱えながらむむむ、と腕を組んだ。その様子を微笑ましく思いながらクダリは問いかける。

「そういえばそれ、すごく年期入った人形だね。いつも持ち歩いてるの?」

「これ?持ち歩いてるのはいつもって訳じゃないけど、すごく大事なものなの。旅の男の子にもらったんだ。」

 そう答える彼女は嬉しそうだ。へぇ、と返しながら少しその男の子のことを想像した。旅をしていた、ということはその子もトウコやトウヤの様にトレーナーだったのだろうか。



「あ。着いた!ここだよ!」

 少女はそう言って見えてきた建物を指す。それはライモンにあるステーションに比べればずっと小さな駅だった。建物自体は一階のみで、街にある他の建物と 似たような外観をしている。割りとシンプルだ。しかしカントーとジョウトを繋ぐだけと言うから、用途を考えれば規模的にはおそらくこれで十分なのだろう。

「じゃあ、あたしはこれで!昔は定期が無いと乗れなかったんだけど、今は普通にチケットが買えるはずだよ!ジョウト、楽しんでね!」

「楽しい案内をありがとう!」

「いつかイッシュにもいらしてくださいまし!」

 サブウェイマスターの二人を筆頭に、皆が口々に別れのあいさつを口にする。手を降りながら見送れば、彼女は街の雑踏に紛れてすぐに見えなくなった。
 それからは駅に入り、チケットやら弁当やらを買うなどして電車の出発時間まで時間を潰す。しかしそんな時間も、駅へとすべるようにリニアがやって来てからはあっという間だった。面々はリニアに対して外観や音に対して称賛の言葉を口々に上げながら中へと乗り込む。
 席に着いてからもそれは止むことがなく、ライモンにある車両との差異や機能的なものなど話題は尽きなかった。
 しかしそれも、チケットを切るために車掌がやってきたことで一時中断される。

「わたくしたちがチケットを切られる側と言うのもなんだか変な感じですね」

 ノボリはやってきた車掌にチケットを差し出しながらクダリに笑う。

「同感」

 ノボリの言葉にくすりと笑いながら、クダリもチケットを差し出した。
 二人はそんな状況が楽しいようで、傍目から見ても彼らの高陽感が見てとれる。その様子はまるで大きな子供だ。仕事の時にはどこかぴりりとしたオーラを纏っているが、そうした場を離れてみればこんなにもやわらかい。
 普段は見られない自分たちのボスの一面を見た気がして二人の様子に鉄道員一同はほっこりした。


 リニアは山間の景色を窓に映しながら、なんともスムーズに移動する。トレインの様に規則正しい揺れや音を出すこともなく、それこそすべるように走る。
 心地の良い静かな揺れに身を任せて、クラウドはシートにゆったりと身を沈めた。このまま寝てしまいそうだ。しかしそんなのはもったいないと窓の外に目を やると、リニアはちょうどシロガネ山の手前に差し掛かった所だった。未だ秋の領域だろうに、既に山の頂上付近は雪で真っ白だ。
 なんとはなしに山を眺めていると何の前触れもなく頂上の方で閃光が迸り、かと思うと大きな雷が落ちた。ややあってその音はゴロゴロとこちらまで響いてきた。

「スゴイ雷デスネ…」

 となりに座っていたシンゲンも今のを見ていたらしく、視線は窓の外へとやったままぽつりと呟く。

「にしてもそう天気が悪い様にも見えんけどな」

 山には詳しくない彼らでも分かるくらいの晴れ間だった。多少雲がかかってはいるものの、それは決して雷を誘うようなものではない。不思議なこともあるもんだと二人して窓の外を見つめた。








「あの山の話、聞いたことあるかい?」

 唐突にそう声をかけてきたのは通路を挟んでとなりに座っていた老夫婦だった。
 二人がいいえ、と首を振ると身を乗り出して話始めた。

「あそこはね、頻繁に雷の落ちる山なんだ。昔はそんなこと無かったんだが、あるときからよく落ちるようになったんだよ」

「あの山に登った者の話なんじゃがね、見たらしいんだよ…」

「ナ…何ヲデスカ…?」

「幽霊をさ…吹雪の吹き荒れる中半袖の赤い影が揺らめいていたんだよ」

「そんなの迷信さ」

 いつから聞いていたのか、クラウドたちの前に座っていたラムセスがいつのまにやらこちらを向いている。そのとなりに座っていたトトメスも、椅子の上に膝立ちして座席の背に肘をついていた。

「ラムセス、いきなり失礼だろう」

「ぼくは幽霊信じない派なもんで」

「はは!いいんだよ、まぁ幽霊かどうかはさておき今のところあの雷はトレーナーとそのポケモンの仕業というのが有力だね」

「あんな山の頂上で?」

 老婦人の言葉にトトメスは首を捻り、クラウドがそれに同意する。

「そうや。そもそもあんなとこに何しに行くんや。頻繁に雷落ちるいうことはそのトレーナーもずっとそこにおるってことやろ?」

「修行でもしてるんじゃないですか?」

「そうそう。人のあまりこない環境の厳しい所って努力値高い子多いし」

 気づけばノボリとクダリも興味津々といった様子である。クラウドたちと老夫婦の後ろ、空いていた席に二人で通路を挟むようにして腰を下ろしていた。

「これは驚いた。あんたたちは兄弟かなんかかい?」

 そんな二人の顔を見た婦人が目をぱちくりとしばたかせた。

「そう!ぼくクダリ!で、こっちが兄さん!」

「ノボリといいます。わたくしたちは双子でして。」

「どうりでよう似とるわけだな、双子とは珍しい」

 婦人の隣で老人はからからと笑った。

「シカモバトル強インデスヨ!」

 まるで自分のことのように、シンゲンは誇らしげに胸を張る。

「ほう!トレーナーだったのか!残念だな、もし車内でなければぜひお手会わせ願いたかったのだが。」

「お連れさんが言うからにはさぞかしお強いのでしょう?」

「いえいえ、若輩者ですから。まだまだでございます」

「うんうん、まだ勉強足りない」






 二人の言葉に、ひっそりと一連の会話に耳を傾けていたキャメロン、ジャッキー、カズマサは、

「…ボスガマダマダダッタラ、オレタチノ立場ナイ気ガスルヨ」

「まったくですね」

「ちょっと自信なくなってきたよ…」

 とりあえず聞かなかったことにして、三人仲良く車内用の土産雑誌に目を落とした。

2011/12/18

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