AU of Undertale / Japanese translation
【The Empty City】
そう頻繁ではないけれど、Sansは夢を見る
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Sansが夢を見るのは、そう頻繁な事ではない。
彼はそれに感謝している。なぜなら彼がいつも覚えている夢は赤だからだ。終わりの無い赤と、悲鳴と、泣き声。誰かが離れていった。そしてその誰かは、二度と戻って来なかった。また彼は誰かがCoreに落ちて、時空と空間の狭間で粉々になってから、夢を見ていなかった。
Sansは水に浮かんでいる大きな流木の板の上に座って、澄んだ空を見上げている。彼の視線の先に太陽は無く、熱に目が眩む事も無い。その時間が彼は好きだ。彼は必要以上に深く息を吸い、ゆっくりとそれを吐き出した。
辺りを霧が包む。それが当たり前のように。
「君は、地上が好き?」
彼は素早く首を脇へと巡らせて、左目を赤く光らせる。片手を上げて、臨戦態勢をととのえた。
Friskは ― Friskだと!? ― 首を傾げ、口をすぼめている。残りを花で覆われてしまっているFriskの顔立ちからは、混乱が見て取れた。
「君は、地上が好き?」Friskは繰り返す。
彼が頭を垂れると瞳に灯る魔法はゆっくりとその色を無くし、わずかに口を開く。しばらく彼が何も言わないでいると、人間は頭を前へとめぐらせて水に膝まで浸かっている足を蹴り上げる。Friskは水面にできる波紋に楽しくなったようで、更に強く蹴り上げた。
「F - Frisk?」Sansはかろうじてしぼり出す。
Friskはその気に入っていた行為を止めて彼に向き直り、再び同じ事を問うてきた「君は、地上が好き?」
「僕は…」Sansの語尾が消え入る。
人間は悲しげに頭を垂れて、そっぽを向く「好きじゃないんだ」Friskは再び足を蹴り上げ始めた「ボクの死は無意味だった?」
「Frisk、それは違う」Sansは、Friskの肩を水が掠める前に、片手を伸ばして蹴り上げるのを止めさせる「お前さんは皆を自由にした」
「そして君は、それを快く思っていない」Friskは言って、うんうんと頷いている。
ここの水は、地下に戻ったWaterfallのようではなく澄んでいて、引き込まれそうだ。水は暗く、冷たく、そして流木が続けて流れてくる。Sansは、水面から頭だけ覗かせて、ほとんど水に飲み込まれそうになっている街灯をFriskが見過ごすだろうと思った。
「見て」Friskがそう言うと、Sansは見ていた街灯からFriskが指し示しているところまで視線を移す。その先に、先程見た街灯と同じ様な状態の建物があるように見える。その建物はてっぺんを残して、あとは水の中だ。
「何が起こったんだ?」Sansは訝しげに声を上げる。そのモザイク細工は彼らを脅すようにそびえ立ち、通り過ぎる。けれど彼らは死んでいた。からっぽだ。しんと静まり返っている。佇んで、灰色、そしてただただ空虚で、不恰好な命の塊だ。今ではFriskのおかげでモンスターたちはあのような建物の中で働く事ができ、そして彼はそれを嬉しく思う。これを見ているということは…つまり。
Sansは流木の端へと体を傾けた。底は見えない。水は真っ黒だ。
「何が起きたのか、君は知ってるよ」Friskは口を開く。
Sansは顔をしかめる「僕は知らねえぞ」
「知ってるよ」Friskは言う。足を流木の上へと戻して、そこへ立つ。Friskのズボンは濡れてさえいない。Sansは金色の花が顔を覗かせているのが見えた。
Friskは端へと足を踏み出す。
「お前さん何してるんだ?」Sansは起き上がるのに手をついたけれど、Friskは聞かなかった。Friskは前へと体を傾かせ、そして落ちた ― 水しぶきと共にまっすぐに水の中へ。
Sansは端へと駆け寄って、Friskを掴もうと腕を投げ出す。けれど何もない。ただ水がそこにあるだけだ。そしてFriskはいない。
Sansははっとして目が覚めた。片腕が空を掴む。そしてFloweyが一体どうしたのかと彼に尋ねた。
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次の夜、Sansは自分がFriskと共に、同じ流木の板の上にいることに気付いた。同じ空の下。同じ用に半分浸水した町。彼はFriskの袖を掴んで見つめた。
「駄目だ」彼は口を開く。Friskは首をかしげた。「頼む」彼の声は震えていた。
「君はボクを助けられない」Friskは言う。彼は頭を振った。
「ここにいろよ」
「無理だよ」
「Frisk、頼む」
「できないんだよ、Sans」Friskは言った。
彼らが乗っている木の板が突然転覆したとき、Sansは抗議に口を開いたところだった ― 彼らが腰を下ろしていた所はひっくり返り、二人を暗い水の中に浸した。Sansは水の中で腕を彷徨わせ、上へと泳ぐのに十分な感覚を取り戻す。水面に飛び出すと辺りを見回した。
「Frisk!」
返事は無い。Sansは再び水の中へと潜る。けれど何も見えず、冷たさが彼の骨を飲み込んだ。
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「お前さんは、」Sansはある日、町の側をぶらついている時に自分の肩の上にいるFloweyに尋ねた。「死者が夢の中に尋ねてくる事はあると思うか?」
Floweyはうーん、と唸って、それについてしばし考えているようだった。「ぼくが思うに?」彼は言う「いや、ようするに ― ぼくが花として生き返った時には、いつもCharaの夢を見てたよ」
「Charaはなんて言ったんだ?」
「色々だよ」Floweyは乾いた笑みをこぼす。「知ってるだろ、Charaはそんなにおしゃべりじゃない。けど、ぼくの夢の中ではそうだった。ときどき、それは自分の思い出に過ぎないんだって確信を持っていたし、ときどき、Charaは恐ろしい事も言った」
SansはしばらくFloweyに向き直る。彼は頭を振った。
「Charaは、ぼくらが一緒にいるときにはただの一度もそんな恐ろしい事を口にした事は無かった」Floweyは言って「だから、ぼくはCharaを責めないよ。ぼくが思うに、そう話していたのはぼく自身なんだ ― それはただ、ぼくの夢の中でCharaの姿をとっていただけなんだよ」彼は自嘲する「ぼくの夢の中で、Charaが言っていた事の内の一つなんだけど、Charaは、自分が死んだのはぼくのせいだって言うんだ ― ぼくがCharaを助けられなかったって。けど、本来のCharaはぼくを責め立てた事なんて一度だって無かった。Charaはいつだってぼくに強くなれって言ってた」
「じゃあなんでおまえさんはそんな夢を見るんだ?」
「言ったろ、話していたのはぼく自身なんだって」Floweyは言う「それは、ぼくの罪だと思うんだ。それは、ぼく自身を許すことのできないぼくの言葉なんだよ」
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今回、彼らは崖の上に立っていた。風は強く吹き荒れて彼らの服を翻して、海は彼らの下で唸り声を上げ、空は雲で覆われている。
「なんで景色が変わったんだ?」Sansは尋ねた。
「君が言ったんだよ」Friskは言う「これは君の夢なんだって」
Sansは移動して、崖の縁に立つFriskの右側に並んだ。彼は下に見える岩に打ちつけてくる波を見下ろす。
「お前さんは飛ぶのか?」彼は尋ねた。
「なんでSansはボクの夢を見るの?」Friskは答える代わりに尋ねる。腕を手前へと伸ばし、風を捕まえて指の隙間を通り抜ける風を感じるように広げた。Sansはそれを見やって、肌があったならそうするように、顔の前面にあたる頭蓋にしわを刻む「わからねえ」
Friskはふーむと唸った。Sansは手を伸ばして、Friskの前に伸ばされた手を取る。花は彼の指の骨とは反対に、柔らかくて冷たかった。彼はFriskの手の甲を両の眼窩の間へと押し当てた。
「Frisk、頼む」彼は囁く「頼むから、これを止めてくれ」
「Sans…」
SansはFriskの肩を掴み、それによってFriskの手が下がると、自らの胸にぎゅうと抱きこんだ。彼がキスをするようにFriskのつむじへ下あごを押し付けても Friskは何も言わず、けれど彼の腕の中で硬直する事もなかった。
Sansは、彼らがどのくらいそうしていたのかはわからない。なぜならこれは彼の夢で、夢の中では時間など意味を成さない。彼が感じ取れるのは自身の胸郭から感じ取れるFriskの鼓動だけ、お互いの鼓動と、彼らの周りに吹きすさぶ風と唸る海の音だけだ。
「Sans」Friskは最終的に口を開いた。優しくSansを押し返す。
「僕がお前さんを行かせるとでも?」彼は唸って、Friskに回した腕に力を込める。
Friskはその言葉に固まる、けれどお構い無しに後ずさり、Sansの腕は彼の意思に反して落下する。水は未だに唸り続け、彼はそれらがFriskを呼んでいるからだと思った。そしてそれらは彼がFriskを手放さないことに対して怒っている。
一度地面が揺れた。Friskは滑って、崖の淵から落ちた。Friskは小さな叫び声を上げて、手をSansへと伸ばす「Sans ―」そして、今までFriskが自発的に彼の前から姿を消してきたのとは方向性が変わったのが見てとれた。今回は、助けられることを望んでいる、SansもFriskに向かって手を伸ばす。
そしてSansは目が覚めた。
Friskが岩に激突する瞬間を見ることはなかった。
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彼らは再び水浸しの町に戻ってきた。またしても流木の上にいる。Friskは口に出すべき言葉を得られずに、SansはFriskを掴んだ。左目を閃かせ、声が歪む。
「お前さんはこいつをおもしろいとでも思っているのか?」彼はFriskを揺さぶる。Friskはされるがままだ。「僕が何度も、何度も繰り返しお前さんの死ぬところを見るのが好きで、それになんとも思わないとでも?」
何かが、Sansの頬骨を流れ落ちた。「こんなひどいことは止めてくれ」彼は二人の距離が鼻先からほんの数センチになるまで顔を寄せる「お前さんは僕にこんなひどいことはしないだろう、Frisk?」
SansがFriskの肩を握る手に込める力は、Friskの肩の骨を砕くのに十分な力があると断言できる。けれどFriskは痛みに泣いたりはしなかった。もし彼がFriskの瞳を見ることができたなら、まばたきもしないのが見てとれただろう。
Friskはゆるりと手を持ち上げて、Sansの頬骨に手を這わせ、涙のあとを拭った。Friskの指はそこに添えられたまま、両手で彼の顎を包み込み、Sansは目を瞑って震える息を吐き出す。彼は無意識に、Friskの手に沿って頭を傾げた。
Friskの手は暖かい。Friskの体を食らい尽くしたあの冷たい花とは違う。
「Sans」Friskは口を開いた。Sansはその声に半分だけ目を開き、そしてFriskの顔の半分から花が消え去っているのを見た。いや、花が無くなっている ― けれどSansはFriskの片側しかはっきりと見ることができない。反対側はぼやけてしまっている。
Sansは自分が、花の無い状態のFriskを見たことが無い事に気付いた。二人が出会ったときには既に、Friskの片目は見えなくなっていた。
「君にぼくは助けられないよ」Friskは繰り返す、いつもそうしているように「誰も助けられない」Sansは顔をしかめる。それは別段怒りから来るものではなく、どうしようもない不満から来るものだった。「ボク自身だけが、自分を救う事ができるんだ」Friskは言う「けど、ここには救いを必要としている別の何かがあるよ、Sans」
「そりゃなんだ?」彼は尋ねた。
「ボクだけが自分を救う事ができるっていうのと同じなんだけどね」Friskは言う「君だけがこの町の息を吹き返す事ができるんだ。ボクは君の事を何も責めたりしていないんだよ、Sans」Friskは笑って、Sansの頭の後ろへ手を回し、そしてお互いの額をくっつけた。「自分自身を救えないでいるのに、君はどうやって他者を救うっていうのさ?」
「やってやるよ」Sansはしわがれた声で言う、声が割れていた。
「決意を抱いて、顔を上げるんだよ」Friskは言って、唇をSansの歯へと落とす。「決意を抱いて、Sans」
それからFriskは後へ下がり、腕を広げ、そして水の中へと消え、SansはFriskの名前を叫んだ。