top of page

【Overgrowth】

 

 

死を迎えるたびに、その体には一つ花が咲く。

 

 

―――――――――――――――

 

 

最初の花はFriskの左のこめかみ近くに咲いた。激しく動いて髪が揺れた時には、小さな金色の花がちらりと髪の間から顔を覗かせる。一度Torielの手によって死に、再びRuinsのベッドで目を覚ました後に、顔を合わせた彼女がまずそれに気付いた。

 

Friskは素早く起き上がった。Torielの火球が直撃した腹部に手を当てる。その攻撃が原因でソウルが真っ二つに砕けたのだ。強く息を吐いて、震える手で自らの服を掻き抱き、傷口を確認する。

 

何もなかった。

 

服も焼けていない、血も無く、傷も無い。Friskは、Ruinsの家にあるベッドの中にいた。シーツを握り締め、玉の様な汗が体を伝う。Floweyも、寝床にしているベッドの隣の机から起き上がったようだった。

 

彼らがリビングに着いたとき、Torielはそこで二人が来るのを待っていたようだった。そしてFriskが近づくと、彼女が読んでいる本について聞きたいかと尋ねてきた。 

 

自分が以前起こったことについてはっきりと覚えている場合、これはデジャヴと呼べるんだろうか?

 

「あら、おチビさん…廊下の花がそんなに気に入ったの?」彼女は尋ねた。

 

その言葉にFriskは顔をしかめる。そしてTorielの視線を追い、その先にあるものに気がついて顔をぺたぺたと触った。すると、手が顔の左側にある何か細く柔らかいものに触れ、引っ張ろうとすると激しい痛みが走る。思わず目をつむり小さく呻いた。暗い視界に目眩がする。

 

「大丈夫?」視界が利くようになったとき、Torielは本が床へ落ちるのもそのままに、よろめいたFriskに手を差し伸べたところだった。

 

Friskは身振りで大丈夫だと伝え、固い笑みをこぼす。自分が目の前の母親相手に殺されたことをはっきりと覚えている今、自然に笑いかけることは難しい。

 

どうしたらTorielの申し出を断りRuinsを出ることができるのか、聞くことを先延ばしにして再び自分たちの部屋に戻ってきたとき、Floweyは混乱した視線を投げかけた。

 

「自分で頭に花を差したの?」彼は尋ねた。

 

Friskは頭を振る。ぴたりと固まり、床をじっと見つめた。

 

そうしてため息をつくと、ベッドへと腰を下ろす。「わからないよ」とぽそりと呟いた。「すごく混乱してる。何が起きているのかわからない。わけのわからない夢を見ているみたい」Friskは言葉を散らすように手を振った。物事を考えるには未だ耳鳴りが激しすぎる。

 

「ぼくは…」Floweyは一度そこで押し黙り、そしてはっきりとこう口にした。「ぼくは、君は死んだんだと思う」そう彼は言う。「それで、最後のセーブポイントまで戻ったんだ」

 

Friskは眉を上げた。

 

Floweyはため息を吐く。「Frisk、今は寝たほうがいいよ」

 

その言葉に、ベッドへと横になる。けれど一睡もできなかった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

TorielがSnowdinへと続く扉を壊してしまうことを決めるまで、繰り返し繰り返し、FriskはひたすらにRuinsを抜ける方法を尋ね、また彼女もその度に止めた。以前やってきた子供たちが彼女の言うことを聞かずにRuinsを抜け、他の者達の手によって殺されてしまったために冷酷且つ狂ったように怒っていた。そして言うことを聞かなければパイに詰めて焼いてしまうぞと脅して、またひたすらに彼女はFriskに戦いを挑んだ。

 

それでもFriskは、決して戦い返したりはしなかった。

 

同じ戦いも二度目。今では当然のように彼女の攻撃を避ける。けれども脇へと飛び退るのが遅れ、目に火球が直撃してしまった。Friskは視界と、顔の半分を奪われた痛みに叫ぶ。Friskは足元の地面に引きずり込まれる前に、Torielが「ごめんなさい…」とかすかにささやく声と、Floweyが自分の名前を叫ぶのをどこか遠くで聞いた。

 

そして次に目を覚ましたとき、FriskはTorielの家にある自室で再び天井を睨みつけていた。

 

「Frisk?」Floweyがささやく、次いで「Frisk!Frisk、大丈夫?」と声を上げた。

 

呼吸をすると、とても胸が苦しく思える。そうして自分を落ち着かせようと、胸に手を置いた。すべてがぐるぐるする。

 

「Frisk…」FloweyはFriskの注意を引くために自分が植わっているブーツを軽くつつき、そのせいで机に顔面から落ちてしまった。「くそ…」彼は呻いて、地面からツタを伸ばして自身を元の位置まで押し上げた。

 

涙がFriskの目尻をちくりと刺し、嗚咽を抑えるために両手で口を覆った。Floweyは自分がしていたことを止め、その代わりにFriskを見下ろす。葉っぱが丸まってしまっていた。

 

Friskの頬には、新しい花が咲いていた。最初にこめかみに生えてきた花からほんの数センチ離れたところだ。けれどFloweyは朝までそれには気がつかなかった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

次にFriskが出て行くと伝えたとき、Torielは目に見えて訝しげにその新しい花を一瞥した。けれどもすぐに彼女の関心はFriskの言う要望へと移った。今回Friskは、Torielに留まる話をさせずにFloweyを腕に抱え、地下室へと駆け下りた。Torielが怒りの叫び声を上げて後を追いかけてくる。

 

灼熱の炎が背中を直撃したせいでつまずいて、再びベッドで目を覚ます前にFriskが把握できたのは、「危ない!」と警告するFloweyの叫び声だけだった。

 

新しい花が耳の傍に咲いた。

 

 

 

 

Friskはもう何度Torielに出て行っていいか尋ねたのか忘れた。何度頼み込んだか、何度自由のために叫んだか、何度それぞれが異なる方法で焼かれ、時たま嫌々ながらも台所へ引きずられてナイフが皮膚に食い込む感触に叫んだかことか、何度Floweyが泣き叫んだか、そして何度、頭に響いてくる声が言ってきたのかもFriskは忘れた。『決意を抱き続けなさい。決意を抱き続けなさい。決意を抱き続けなさい』

 

それらはまるで同時にFriskの身に降りかかったように聞こえるだろうが、実際は違う。

 

Friskがわかっているのは、毎回死ぬ度にいつも見覚えのある同じ天井を目にして目覚めるということ。そうして体には、決まって新しい金色の飾りが増えている。一応花を引っこ抜こうと試してはみたものの、その度に激痛が体を襲うので、花を体から取り除くことは諦めた。Floweyはセーブやロードなどの時間を越える仕組みについての説明はしてくれたけれども、花については説明できないようだった。Torielはその新しい飾りについて問い詰めることを理由に、Friskの出て行きたいという申し出にただただ怒り狂った。

 

それはほんとうに長い、長い時間を要した ― Friskの顔の半分と左手首の一部を花が覆い尽くす程に ― そしてついに、Torielが泣き崩れる直前に放った最後の攻撃を避けた。Friskは安堵から激しく息を吐いて、膝から崩れ落ちた。ソウルは弱々しく震えながらもなんとか持ちこたえている。

 

Torielは強くあれと諭した。それと同時に、おそらく外にいるモンスターたちは何の慈悲も持ち合わせていないだろうとも。そしてFriskを今の場所に留めて置けなかったことを誤った。Friskはそれに微笑んで、身振りでこう伝えた。貴方を赦すよ、と。

 

「貴方に一度、私の子供を思い出させられたわ…」Friskを最初に(そして最後に)抱きしめたとき、Torielはそう呟いた。そうして彼女に顔を埋めると、何かを焼いていた香りと火の匂いがした。Friskの母親は上のフロアへ戻る前に優しく頭を撫でていき、そして決して振り返りはしなかった。

 

FriskはFloweyを腕に抱えて一緒に遺跡を出て、扉がバタンと閉じるのを見送った。

 

「子供って、一体彼女は誰を思い出したんだろうね?」Friskは小さくささやいた。Floweyはそれに対して何も言わず、けれども閉じた扉から目を離さなかった。そのときFriskの心の底では、Charaの声は無感情だった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

スケルトンのSansはFriskを橋の傍で出迎えてきた人物の内の一人だった。彼は自らがしゃべり始めるまでそっと後をつけてきて、いざ声をかけたときには恐怖でFriskを震え上がらせた。振り返ると、ポケットに入れたままだった手を片方差し出してくる。そうしてFriskが道中で拾ってなんとはなしに分厚い雪の上をひきずってきた木の棒を見て、一本だけ金色の左端の歯を光らせながら彼は怠惰な笑みを浮かべた。Floweyはそれを見て頭を引っ込める。Friskの瞳はそのモンスターの首にぶら下がっている金色の星の辺りを彷徨った。

 

セーブポイントだ。

 

「何かいいもんはあったかい?Sweetheart?」視線は木の棒へと向けたまま、彼は尋ねてきた。Friskは答えない。

 

彼はくすくすと笑みをこぼして、手を差し出してきた。「新しい仲間への挨拶の仕方も知らねぇのか?」

 

Friskは目の前に差し出された骨の腕に目を落とすのに、少々時間がかかった。そうしてゆっくりと腕を上げSansの手を握る。

 

突如、今までに経験したことの無いくらいにひどい電気ショックがFriskを襲い、のた打ち回ることになった。

 

「誰もお前さんに教えてくれなかったのかい?」彼はゆっくりとそう口を開いたが、Friskには何も見えない。彼はどんどん遠ざかっていき、Friskの顔は冷たくなり始めていた。視界は辺り一面真っ白だ。「この世界はな…殺るか、殺られるか、だ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskが瞬いたとき、彼らは再び遺跡の閉じた扉を見つめていた。

 

Friskは手を持ち上げて、Floweyの入った植木鉢代わりのブーツを反対の手で持ち直した。そしてじっと見つめる。

 

「大丈夫?」Floweyは尋ねた。

 

「大丈夫じゃないよ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

今回、FriskはSansがしゃべりかけてくる前に機転を利かせて、彼の伸ばす手を取らないようにした。Friskはぐい、と強くFloweyをその胸に抱く。

 

「友情の挨拶を拒否するなんてずいぶん失礼なやつだな、そうは思わねえか?え?」Sansは尋ねる。Friskは静かに首を振った。

 

彼は舌打ちを…つまり、まあ、舌かあるいは何かを打った。彼の口は開くことがないので。FriskはSansが口を開かずにどうやってしゃべっているのか全く以ってわからない。

 

「で、お前さんはどこへいくんだ?」彼は両手をポケットに突っ込んでFriskの先を行く。そうして橋の上にある棒を通り過ぎた。その場所はお互いがすれ違うのに十分な広さがある。Friskは動かずにただ彼を見つめた。

 

Sansはそれに憤慨する「お前さんこのままじゃ凍え死ぬぞ。ハニー、僕の客になれよ」

 

それが合図だったかのように、Friskは寒さで震え始めた。Floweyを傍に抱き寄せ、彼も体を縮こまらせる。Friskは橋の上の棒を潜り抜けてSansの傍にたどり着くまで、慎重に歩を進めた。

 

スケルトンは満足そうな音を立て、再び歩き始めた。Friskもそれに続く。

 

「この先をずっと行くとSnowdinて町があるんだ」彼は言う「お前さんはそこに向かってるのか?」

 

Friskは少しの間眉を寄せ、そして口を開いた「外へ」

 

「外?」Sansは繰り返す「そりゃどこの外だよ?」

 

「ここの外」Friskはそう言って上を指差した。

 

「そいつは大した野望だな、sweetheart」彼が歩みを止めたのでFriskもそれに倣う。「特にここいらにいる奴にとってはな。ほら、僕はこの通りここの区域の見張りだ。そんで人間を捕まえなくちゃあならない」そうSansは言う。「だがもしお前さんが、誰でも信用するのに十分な程だんまりじゃなくなるってんなら、時々うっかり見逃しちまうことがあるかもな」

 

Friskは憂鬱そうに足から足へと重心をずらす。ふと、Sansは頭を横へと向けた「ああ、そうそう。僕の兄弟は人間狩りの愛好家でね。噂をすれば…来たみたいだな」

 

道の先、かすかだが硬質に足を踏み鳴らす音が聞こえてくる。Friskは思わず目を大きく見開いて、隣を見た。しかしそこには、ぼんやりと赤い色を残した雪の跡が残っているだけだ。

 

「幸運を祈るぜ、おチビさん」Sansは片方の眼窩をゆっくりと閉じてウィンクする。「Papyrusは慈悲の愛好家と呼ぶには程遠いからな」

 

 

―――――――――――――――

 

 

Papyrusが再びやってきて、最終的に道の脇にある大きな岩の影に慌てて隠れたときには、Friskの左腕は肘から手首にかけて花に覆われてしまっていた。ありがたいことに、Sansは隠れている場所を暴露したりはせず、ダジャレで自分の兄弟の気を逸らしてくれている(「僕はトン単位の仕事をこなしてきたぜ。スケルトンだけにな」「SANS!」)それから彼はそこを去るまで、兄弟の無能さについて声高にぶつぶつと不平不満を洩らしていた。

 

Friskは数分後にそっと顔を覗かせた。Sansに対して怒りと混乱の入り混じった表情を向ける。

 

Sansは肩をすくめた。

 

Sansは一方ではFriskを殺し(一度だけだったが)、危機にさらされたとしても手助けをしたりはしない。しかしもう一方で、もしうまく危機を避けることができれば自由にさせてくれるし、彼も別段止めはしない。中立の立場なんだな、とFriskは判断した。全く煮え切らないものである。

 

「あいつ戻ってくると思う?」Floweyは尋ねた。

 

Friskはそれに小さく頷く。

 

SansはFriskが隠れている場所から出てくるのを待っていた。「へへ、どうやら運がよかったようだな」Sansはそう声をかけてきた。Friskは花が袖からちらりと顔を覗かせている手を見下ろす。Sansがこの事について聞いてこないのが不思議だった。もしくは将来的に、Friskがある種の花のモンスターとして消え去るのだと判断したのかもしれない。

 

「あれがSnowdin?」

 

Sansは頷く「ああ、連れて行こうか?」

 

Friskは思わず後ずさる。それを見てスケルトンは笑った。

 

先を歩く彼の、二歩後ろをFriskはついて行く。始め手にしていた木の棒は、万が一逃げる必要ができたときにFloweyをしっかりと抱えられるように途中で捨てた。けれども奇跡的に、その必要は全く無かった。そう進まないうちにすぐクリスマスライトで装飾された『WELCOME TO SNOWDIN』と書かれた大きな看板が見えたからだ。そこには木の周りで肩を寄せ合っているモンスターたちだけでなく、いくつか店もある。FriskとFloweyは揃って安堵のため息をついた。

 

Sansは両腕を広げてみせ「Snowdinへようこそ」と言った「Papは普段ここにはいないからな、お前さん、しばらくは休めるんじゃないか」

 

Friskはさらりと宿屋の方へ目をやって頷く。そうして「ありがとう…」とぽそりと呟いて、「なんで助けてくれたの?」と指摘した。

 

「助ける?」Sansの表情からどうやら方眉を上げたように思える。Friskは再び生物学のなんたるかは考えないようにした。Sansは骨でできているはずなのだ。骨に柔軟性は無い。

 

「いいや、ガキんちょ、お前さんは自分自身を助けてるんだ。僕はちょいと脇の方から物事がそうあるがままにまかせているだけだからな」

 

「なんで兄弟のところに連れて行かなかったの?」

 

Sansは首を傾げた。「んー」再び肩をすくめる「お前さんおもしろいな。Papyrusから隠れていた時にゃあ忍び笑いをこらえているように聞こえたが。なんにせよお前さんはついてるぜ。Papは自分の声がうるさくて他人の声はよく聞こえてねえからな」

 

Friskは想像してみた。けれど思い出されたのは記憶の底にあるSansの皮肉な声だけだ。

 

スケルトンは別れ際、再び先へと行く前に、ひらりと一度だけ手を振った。Friskは宿屋へと足を運ぶ前にその姿をじっと見つめた。寝るにはちょうどよい時間だった。そしてこの全ての災難の中で持ち得る、その仮初の希望ですらFriskを決意で満たした。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskは朝に目が覚めた。ありがたいことにまだ町の住人はFriskを殺そうとしてこない。彼らは冷たく、Friskにじろじろときつい視線を投げかけたけれども、それはどうにかあしらえる。慣れていたからだ。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskは寒さに震えながら、Floweyを腕にSnowdinをとぼとぼと歩いていた。店には服がまったく置いていなかった。店員に在庫が無いかと尋ねても、帰ってくるのは「ないね」というそっけない言葉だけ。

 

その為寒さの中でも、自分が着ている服だけで過ごすしかなかった。

 

歩いていると、何か赤い光が道の先に見えた。雪のせいでぼやけてよくみえないせいかこちらを厳しい目つきでじろじろと眺めている。そしてFriskはそれがPapyrusだということに気付いて少々パニックに陥った。そして少しだけ近づいて、それが少し背の小さい雪の像であることがわかったとき、そこに金色にきらめくセーブの星があるのを見つけてFriskは胸をなでおろした。

 

Sansは顎に手をついて、窓にもたれるようにして見やり小屋に座っていた。

 

「お前さんがここまで来るとは思わなかったぜ」そう彼は言う。

 

Friskは肩を竦め、Sansは鼻を鳴らした。「Snowdinにいるのはいいと思ったろう。ほら、あったかいし、安全だし、飯もある。Papはたまにしか戻ってこないからな、運が良けりゃあ遭遇することも無いだろう」

 

Friskは頭を振って、上を指差した「外へ」

 

SansはFriskをしばらくの間見つめ、自らの頭を振った「お前さんはほんとにやるつもりなんだな、え?」

 

Sansの眼窩にちらりと光が揺らめいて、Friskの頭を半分ほど覆ってしまっている花を捉えると、彼はふーむと唸った。「この先にゃあ、たくさんの仕掛けとパズルがある」彼は言う。「Papが設置したんだ。お前さんが素早くそいつを乗り越えることができりゃあ、彼が戻ってくる前にSnowdinを出られるかもな」

 

Friskは続く道を振り返って頷く。Floweyは、植木鉢代わりのブーツを抱えるFriskの片手に葉っぱで触れた。

 

Friskは笑ってSansに引き返した。「ありがとう」と言って小さく頭を下げ、再び歩き出す。

 

見張り小屋を離れる前にFriskが最後に見たのは、少し驚いたような表情を浮かべたSansだった。そして「今まで誰もそんなこと言う奴はいなかったぜ」と言って小さく笑った。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskが最初の仕掛けをどうにか乗り越えるのには少なくとも30分はかかり(上に乗ると爆発する代わりに電気ショックが流れる地雷が雪の下に仕掛けられていた)そのうちの半分はFloweyと一緒に『どこが当たりか当ててみろ』と称された仕掛けを解くのに費やした。Friskがいくつかのエリアに石を投げ、Floweyがツタを伸ばして地面に何もないか感じ取る。そうして何かがやってくる恐怖に怯え、苦痛に手間取りながらも先へと進んだ。XOパズルはそれに比べればずっと簡単だった。間違った場所を踏んでしまった場合にはカチリと音がする、またパズルをリセットした時にはその場所はそのまま残るので、地面が陥没する前にそのパズルを解く必要があった。

 

一時間後、Friskはフードを被った二つの影に出会った。(そしてそれが犬だと気付く)そして歯をむき出しにして威嚇するように唸りながら、隣接して斧を振り回してくる。Friskは二匹を撫でるのは諦め、とにかく逃げた。

 

そしてPapyrusと鉢合わせた。

 

そのスケルトンはFriskをみて衝撃を受けたようだった。頭の側面を覆う花に目をやって顔をしかめる。

 

「人間…」Papyrusはそれだけ口にした。直後、Friskは自分のソウルが体からバトルフィールドへと引っ張り出されるのを感じ、そして大きな骨に貫かれた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskは再びSnowdinの宿屋に戻っていた。

 

「急いでいかないとだめだね…」FloweyはFriskが目を開けるのが厄介になるとすぐにそう伝えた。「ぼくらは仕掛けの解き方ももうわかってるし、もし急げばあいつをやりすごせるよ」

 

Friskは少しためらいがちに唸った。

 

「Frisk!」

 

Floweyは自分を押し上げて、居住まいを正す。

 

「Frisk…きみは外に出たいんだよね?そうだろ?」そう彼は尋ねた。

 

Friskはそれに対して口ごもり、けれどもしっかりと頷いた。

 

Sansは相変わらず見張り小屋にいた。顎に手をついて、最初に見たときよりも暇そうにしている。

 

彼は同じことを言って、Friskも再び彼にお礼を伝えた。今回、Sansはそれを聞いてただ笑っただけだった。

 

Friskは、それに何かのズレを感じた。 

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskは電気ショックの仕掛けとXOパズル、そしてDogamyとDogaressaの二匹をより早く攻略した。(二匹の名前を知れたのは、急に進路を変えてどこかへ避けた人間を捕まえるために、お互いを呼び合っていたせいだ)まだ時間に余裕がある。次の仕掛けは雪の中のどこかに隠されたスイッチと針山だった。Friskはそれを解決したことになる、なぜかと言えばFriskの疲労れた不満げな足踏みと、Floweyのツタから地面と木から隠されたスイッチを察知する試みは相性が良かったからだ。

 

そして再びPapyrusと相まみえることになった。今回、スケルトンが油断した一瞬の隙を突いて、Friskはすぐさま避けた。

 

「やったねFrisk」Floweyは小声でそうささやく。

 

FriskはPapyrusを倒さずに見逃した。

 

Papyrusはそれに眉間のしわを深め、空中にいくつかの骨を呼び出すと、それを人間に向かって発射した。Friskはそれを一本、二本、と避け、三本目が髪をかする。しかし何かが後ろから足に突き刺さり、泣き叫びながら雪の上へ倒れた。

 

最初の骨はFriskの背中を貫いて、綿密に背骨を粉砕した。Friskは痛みに体を折り曲げたが、その動きに更に悲鳴を上げることになった。そして二度目は腕を貫いて、三度目の骨はFriskのソウルを切り裂いた。

 

そうして、最後の攻撃が頭の後ろに打ち込まれた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskはすぐさまベッドから起き上がると頭の後ろへと手を伸ばした。どうやらなんの傷も無いようだ。

 

もちろん、そこには何もない。けれどFriskは何かの亡霊の棘に頭蓋を抉じ開けられたような気分だった。

 

そこには何か冷たいものがあった。冷たくて、柔らかくて、細い。けれど髪に絡みついている。Friskはそれを少しだけ引っ張ってみて、苦痛にびくりと身を震わせた。

 

別の花がある。

 

これまで、花はFriskの左側の腕と顔にしか咲いていなかった。けれど今回生えてきたのは後ろ側だ。

 

「別のやつ?」Floweyは小声で尋ねた。

 

Friskは頷く。

 

再びSansの見張り小屋へやってくると、Friskは先にしゃべりだした。「PapyrusがSnowdinに戻ってくるまでどれくらいかかる?」

 

SansとFloweyは訝しげにFriskに目をやった。

 

「彼は今Waterfallにいるはずだ」Sansはそう話始めた「UndyneはいつもWaterfallの確認に二時間半ほどかかるからな。そう考えると、だいたい戻ってくるまで数時間ってとこか。まあ町にゃあ入って来ねえよ。もっとも、何も用事がなければの話だが」

 

「例えば?」Friskは首を傾げる。

 

「寝るためさ」Sansは答えた。「僕たちだって睡眠は必要だからな。食べ物も」

 

Friskは苦虫を噛み潰したような顔をした「きみたち飲み食いできるの?」

 

Sansは鼻を鳴らす「そりゃあそうさ」そうして彼はこう言う「Grillby'sを素通りしてちゃ恥だぜ」

 

Friskは混乱に顔をしかめた。

 

Sansはその様子を見て少し後ろに下がる「ちょい待て」彼はそれほどではないがスケルトンとしてできるだけ目を細めた。「お前さんまさか、Grillby'sに行ったことねえのか?」

 

Friskは頷く。FloweyはそんなFriskのお腹をつついた「ねえFrisk、何してるの?このままじゃPapyrusに捕まっちゃうよ」

 

「大丈夫だよ」Friskはささやき返した。

 

「お前さん、しばらくSnowdinに居たにも関わらずGrillby'sへは行ってねえっていうのか?」Sansは実際傷ついたように見える「朝飯もか?」

 

Friskは再び頷く。

 

「クソ…」Sansは座っていた椅子からひょいと飛び降りて、小屋の外へと踏み出した「お前さん、このまま出て行って餓死する予定でもあんのか、カワイコちゃんよ?」

 

「時間が無いんだ…」Friskはそう言って道を振り返る「急がないと」

 

Sansは一瞬だけ道の方へと視線を投げてせせら笑うと、ゆったりとした表情でFriskに向き直った。「来いよ」そう言って先を歩き出す。「Grillby'sへ行こうぜ」

 

SansはFriskへと手を伸ばし、その手に触れた。Friskはすぐさま手を引っ込める。目を大きく見開いて、激しく息を吐いた。

 

Sansの手を見た。その手には何も握られていない。そして彼のジャケットの袖は少しだけ捲くられていて、本当にそこには何もないことがわかる。そこにはFriskを殺すようなものは何もない。

 

Sansは、今度は眉を上げるようなことはしなかった。

 

Friskはごくりと唾を飲み込んで、目をつぶる。再び呼吸を整えるまでに数分かかった。そして頷くと、Grillby'sへ行くためにSansの隣へと踏み出す。けれど、手は繋がなかった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Grillby'sはSnowdinにある他の店と大して差が無いように見えるにも関わらず、明らかに暖かかった。Friskは思わず肩の力を抜き、Floweyは葉っぱと花びらの上に積もった雪を頭を振って落とす。そしてすぐさまFriskに火の元へと進むよう促した。

 

他の客はSansをちらりと見やり、その後すぐに向き直る。彼らは物珍しげな視線でさえFriskに向けることはなかった。

 

店内の火の元となっているのはバーテンダーだということがわかった。(そしてSansが彼にこの店のオーナーとして呼びかけたからだ)Grillbyは眼鏡をかけ、頭はまるごと炎の玉だ。Friskはそれがどうなっているのか、またなんで服が燃えないのか全くわからない。

 

Friskが注文の好みについて無関心を示したとき、Sansは二皿のフライドポテトを頼んだ。Grillbyはマスタードのボトルを手渡してきた。驚きのあまり反応できなかったFriskの代わりに受け取ったSansはそれを差し出してくる。

 

「マスタードかけるか?」

 

Friskはボトルとフライドポテトを見、頭を振った。

 

もしできたらの話ではあるが、Sansはにやりと笑みを深くした。「つまり、僕は遠慮なくこいつを使えるってわけだ」そう言って彼はフライドポテトにマスタードを浸し始めた。FloweyはFriskの隣の席から、うぇっと小さく声を洩らす。Sansは自分のフライドポテトにこれでもかという程マスタードがかけられていることを確認すると、ボトルから直接マスタードを飲み始めた。Friskはその様子を見ない様、機械的に自分のフライドポテトに向き直って食べる。

 

Friskは代わりにケチャップが無いか辺りを見回した。するとGrillbyがそれに気がついて、遠くのバーの端にあったボトルを掴み、人間へと差し出した。

 

「ありがとう」とFriskは言った。その言葉にGrillbyは数秒の間後ろへ下がったように見えたが、次いで彼の炎が明るくなる。Friskはそれを良い印だと受けとった。

 

FriskがSansにお礼を言ったときはいつでも、どこか似たような反応だった。この地域には誰も礼儀正しい者はいなかったのだろうか。

 

フライドポテトは実際、かなりおいしかった。食事をしたのはRuinsが最後の事で、それから少なくとも二回は死んでいる。24時間以上経っているのだ。Friskがあまりにも早く食べ始めたときには胃が少々締め付けられて、Floweyが葉っぱで脇を叩いて落ち着いて食べるように伝えた。Friskは頷いて、お腹が落ち着くまでフライドポテトを少しずつかじった。

 

Sansはすでに皿の半分を食べ終えていて、別段とんでもない量のマスタードに悩まされているわけではなさそうだ。

 

「食べ物うまいだろ、なあ?」彼は聞いて、Friskは頷いた。

 

「Grillby'sを素通りするなんて恥だってお前さんに言ったろ」とSansは言う。「誰もここよりうまいフライドポテトなんか作れないぜ。もちろん、ここがSnowdin唯一のレストランなんだが。だからお前さんが食べるのを忘れたりしなけりゃ、ここへ来るといい」

 

Friskは中途半端にフライドポテトを持ち上げたまま固まった。頭を振る。「滞在は…しない」

 

「あん?」Sansはいつでも、Friskがそういう時と同じ反応をした。

 

「外へ」Friskは再び繰り返す。自分の反対の腕を握り締めた「ボクたち、外へ出るんだ」

 

「ボクたち?」SansはFloweyを見るために少しだけ前へ乗りだす「お前さんと、この小さい花がか?」

 

「うーん」Friskは頷いて、Sansへと振り向いた。「君は…どうなの?君も外に出たくないの?」

 

「へへっ」Sansはフライドポテトを食べる事に戻った「そりゃあ出たいさ、sweetheart。なんのために僕たちが人間狩りをしていると思ってるんだ?」

 

Friskは混乱に首を傾げた。

 

Sansはひらひらと手を振った「さっさと食べな、sweetheart」

 

 

―――――――――――――――

 

 

Sansが言うには、Papyrusは今Snowdinの側まで来ているらしい。にもかかわらず、彼がこのまま町へ入るかどうかはわからないそうだ。そのためFriskは宿屋に泊まるために戻った。実際のところ金欠ではあるーFriskの意見によれば宿屋の値段は少々高めだーけれども選択肢はまた雪の中で凍え死ぬかのどちらかだ。

 

花は次第に鬱陶しくなってきた。特にFriskの視界の半分を奪ってしまっている状態では目が使い物にならない。

 

とにかくFriskたちは次の日には出発した。Sansは見張り小屋にはいなかった。二人は仕掛けを抜けて再びDogamyとDogaressaから逃げ、そしてPapyrusに邪魔される事なく更に他の仕掛けを突破し続けた。

 

「よかった…」Floweyは二人して最後の仕掛けを通り抜けると息を吐いた。(犬を含めていくつかの武器が橋の上に吊り上げられていて、彼らが橋の上に足を踏み出すと一斉に落ちてきた。けれどそれは全く幸運な事に、Friskが最後までたどり着くのに充分な速度で走り始めていた事と、Floweyがツタで対岸の出っ張りを掴んでいたことが功を奏した)そして行く手に続く道を見やる。そこには視界を遮るほどの激しい吹雪が吹き荒れていた。しかし居座れるような場所は彼らには無い。橋は壊され、Snowdinへ戻る事もできない。

 

Friskは弱々しく咳をして、雪が吹き荒れる風の中に何か見えやしないかと目を凝らした。何も見えない。

 

二人の後ろにはどこにも続いていない大きな裂け目がぽっかりと口を開けていて、他に選択肢は無かった。

 

Friskは向こう見ずに吹雪の中へと飛び込んだ。片手をFloweyに回し、もう一方で花に覆われていない無事な方の目を守る。より早く、ここから抜け出なくては。ブーツは白い雪をばしゃりと跳ね上げ始め、雪の中へと引きずり下ろしたけれど、Friskは足を押し上げて重い足取りで先へと進んだ。

 

「何か見えるよ!」Floweyは叫んで、Friskは彼を抱え寄せて走り続ける。

 

数分後、雪が少なくなり始め、Friskは走りやすくなった。それでも、片手は上げ続けたままだ。

 

Floweyは突然苛立たしげに声を上げた「くそっ」

 

Friskはかかとを地面へ突き立てて止まるために滑り込んだ。上げていた腕を下げたため、辺りが見えるようになる。

 

雪が晴れた今、Floweyにとっても視界を得る事は容易かった。Papyrusが白い雪とは対照的に、赤いケープ纏って立っている。しかしSansも、いつもそうしているように両手をポケットに突っ込んで、気だるそうににやりと笑みを浮かべて彼の右隣に立っていた。

 

Friskは拳を握り締めた。

 

「それで、ほんとうに奴らは来たわけだ」Papyrusは言う。その言葉にFriskは、Sansが密告した可能性があることに気付いて頭を垂れた。丁度肩をすくめた背の低い方のスケルトンを見やる。

 

Papyrusは今一度、容易くFriskを殺した。にもかかわらず先刻の攻撃よりも痛みは少ない。Friskはよろけた。スケルトンに更に数度の攻撃を許し、それは迅速にFriskを殺した。

 

Friskは再びSnowdinで目を覚ました。そう頻繁にはセーブをしていない。

 

Floweyが名前を呼んでいたにもかかわらず、布団の上を転がって再び眠りについた。もうこれ以上どうやって決意を抱けばいいのかFriskにはわからなかった。

 

新しい花が右のこめかみに咲いた。

 

 

―――――――――――――――

 

Friskが実際に起き上がり、Snowdinの外へと立ち向かうのはそれから実に二日後のことだった。以前、Sansに聞いたPapyrusの情報が疑わしい以上、もはや彼について尋ねるのは得策ではない。それでもFriskはSansが話す事にとにかく耳を傾けた。でないと失礼だろう。

 

その場所を離れる前に、Friskは再びお礼を言った。

 

「なんできみはそれを言い続けるのさ?」Floweyはぶつぶつと呟く。

 

二人が通り過ぎる際、Sansは拳を握り締めた。

 

「おい」

 

Friskは顔をしかめる。今までに無い場面だ。いつもならば、Friskがセーブポイントまで引き戻されてしまったときには人々はいつでも皆同じ事を言う。けれどまた…

 

Sansは椅子から飛び降りて、見張り小屋の外へ出た。Friskは振り向く。

 

彼は不快そうに顔をしかめ、頭を俯かせる。そのせいで彼の眼窩に影がかかった。

 

「そいつに一体何の意味がある?ああん?」彼はそう尋ねてくる「お前さんのその甘々なギャグは一体なんなんだってんだ?」

 

Friskは混乱に顔をしかめた。

 

「お前さんは誰にでも親切に振舞っておけば外に出られるとでも思ってんのか?」Sansの後ろの空中に複数の骨が形成される。Friskは後ずさる。けれど赤い魔法が足首に絡みついた。Friskを宙に持ち上げるまで、その体を上へと押し上げ、Floweyを雪の上に落とした。

 

「Frisk!」

 

Friskは無駄に手足を激しく動かしたけれど、どんどん上へと持ち上げられていく。

 

「もしくは、僕らにいいやつだと思われたいのか?」彼は尋ねる「で。隙を見せたが最後、お前さんは僕らを殺すってわけだ」

 

「助けて!」Friskは前に動いて、Floweyに腕を伸ばす。Sansは別の方の手を挙げ、一瞬のうちにFloweyを魔法で覆うと、次の瞬間には松の木の幹へと叩き付けた。Friskは恐怖で息を飲む「Flowey!」

 

「教えてやるよ、ガキ、もしそれがお前さんが目論んでいるもので、うまく機能しなくてよ…」Sansは再び手を動かし、自身の後ろに控えている骨をFriskへと向ける。「そんでもって、他のやり方でやってやろうってんならな…誰もお前さんにゃあ、教えてくれなかったのか?この世界はな…」全ての骨が人間に向けて放たれた。

 

Friskは固く目を閉じる。

 

「殺るか、殺られるか、だ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskは残虐な殺され方に悲鳴を上げながらベッドから飛び起きた。

 

「Frisk!」Floweyはツタを使って机から自身を引き摺り下ろし、Friskのベッドへと降り立つ。

 

人間は手を口に当て、背中を丸めるようにしてむせび泣いた。肩は嗚咽を堪えようとして振るえ、熱い涙が無事な方の目から零れ落ちる。

 

「Frisk、もう大丈夫だよ…」そうFloweyは言う「ぼくたちは戻ってー」

 

「大丈夫じゃないよ!」Friskは叫んだ。ベッドに両手を投げ出して、手を払いのける「大丈夫だった事なんてただの一度も…ボクは…ボクは…」

 

Friskは短い呼吸を吐き出して、震える息を整えた。「ここに降りてきた理由は…それは…それで今は…」Friskはごしごしと涙を拭う「わかんなくなっちゃった…」そうして再び口を開く「どうしたらいいんだろ」

 

はっきりとしていたFriskの声も最後にはしぼんでしまい、顔を両手に埋めてしまった。

 

Floweyは自分の軽率な言葉を恥じて頭を垂れた。

 

「ぼくもだよ、Frisk」

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskがこれまでの事から学んだものがあるとすれば、それはただ、自分が傷ついているからといって、同じ様に誰かを傷つける理由にはならないということだろう。人々には傷つけられる必要性などない。けれどもし、世界が痛みの内にあるというのなら、思いやりのある単純な行動は時として充分な救済になり得る。

 

そうして首に咲いた新しい花と共に、Snowdinで目覚めてから三日後には再びSansの見張り小屋へと同じ道を辿った。

 

Sansはいつものように暇そうに見えたけれど、Friskの方は彼に対して疑念を抱いている。それでもなるべく普段どおりに会話を進め、そしてもちろん、礼を述べた。

 

Sansはそれにたじろぐ。

 

彼の瞳はFriskの顔の辺りをさまよって、首に咲いた花に目を留めた。そうして、今度はこちらに向けて敵意をむき出しにしているFloweyに視線を移す。

 

「なんだって?」Sansは息を吐いた。

 

「ありがとう…」Friskは繰り返す。そうして自らの旅路へと向き直り、決して振り返らなかった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

今回はDogamyとDogaressaから逃げなかった。そのかわり、結局バラバラに引きちぎられる事になった。

 

Friskは右の頬に咲いた別の花と共に目覚めた。まだ無事な目を避けるようにして、すぐ側に生えたのがせめてもの救いだった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

SansはFriskに視線をやらなかった。ひたすらに雪を見続けていて、何か深く考え込んでいるようだった。

 

「Grillby'sに行く?」Friskはとりあえずいつもよりも大っぴらに提案してみた。それはSansを空想の内から引き上げて、彼は「はあ?」と無言でそう応えた。

 

FriskはSnowdinへと戻るしぐさをする。

 

「あ、ああ。もちろんだ」

 

Friskは今日、Floweyを宿屋へ置いてきた。まだSnowdinから出るための計画が練れていないからという理由で。けれど正直なところ、ただ足を伸ばしたかったというのもある。Floweyはわかりやすく疑いを露にして、けれどもFriskを疑った事を恥じ詫びた。Friskはこの地下世界で彼にここまで優しさを示してくれた唯一の人物なのだ。

 

Sansはレストランへと向かう道すがら、取り乱していたように見える。全く口を開かない。Friskは彼がしばらく愛称を使っていないことにも気付いた。

 

Friskは再びポテトフライを二皿注文し、混乱するSansをそのままにして彼にマスタードを手渡すと、自分はGrillbyにケチャップを頼んだ。再び礼を伝える。その後のバーテンダーは嬉しそうに見えた。

 

「お前さんの花の友達はどうしたよ?」Sansは尋ねた。

 

「宿屋だよ」

 

彼はふーむと唸る「Snowdinに滞在するのか?」

 

Friskは否定の意を込めて頭を振ると、いつもそうしているように上を指差した。「外へ」

 

Sansはため息を吐く「お前さんはほんとにやるつもりなんだな、そうなんだろ?」

 

それに答えるのには少々時を要した。気付かないうちにFriskの顔には悲しげな笑みが浮かび、ぼんやりとフライドポテトをケチャップの跡に沿って引きずる。

 

「わかるのは、どうすればいいのかってことだけだよ」

 

Sansの瞳の光のくすませ方と、鼻の鳴らし方から、彼は理解してくれたのだろうとFriskは思った。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskが出発して、結局再びPapyrusとSansに相まみえたとき、Friskはただ悲しげに頭を振って、体からソウルが取り出されるのに身構えただけだった。

 

戦闘が始まった。Floweyが後ろに注意して警告してくれる間に、FriskはPapyrusの攻撃を避ける。それに飽きたスケルトンは、魔法を使ってFloweyを脇へと投げ捨てた。Friskは友人を掴もうとして腕を伸ばす、しかしそれこそPapyrusがFriskの腕に大腿骨を突き刺すのに気を逸らすための罠だった。加えて、それは効果的にFriskの腕を打ち砕き、地面へと縫いつけた。

 

Friskは小さく悲鳴を上げてもがいた。大腿骨を掴んで引っ張るが、腕にあまりに深く突き刺さっているために、かろうじて皮一枚で体にぶら下がっている状態だ。

 

この全ての出来事を、Sansは脇に立って見ていた。最初にこれを経験したときのような憎しみのこもった視線をFriskがこちらに投げて来ないのを、投げ捨てられたFriskの友人が泣き叫ぶのを、そしてどうやって彼の兄弟がFriskの腕を破壊し、そして足までも攻撃するのかを、Sansはただ見ていた。

 

Friskは激しく息を吐く。赤い血が口から滴り落ちて、首に咲く花と服、そして雪を赤く染め上げた。Friskの体の下、血で染まった溶けかけの雪は、ピンで縫いとめられた翼のように見える。

 

人間のソウルはPapyrusの目の前で、弱々しく脈打っていた。

 

「助けて…」Friskは耳障りな声で呟いて、こちらを見上げた。ほんの束の間、Friskの瞳がSansの間で揺れる。「お願い」

 

Papyrusは別の大腿骨を呼び出し、Friskの胸をまっすぐに貫いた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

「うまくいかないね…」Friskは、なんというか、“思い切りクソな時間”を過ごして目を覚まし、ぶつぶつと呟いた。

 

Floweyは机からため息を吐く。

 

「ごめん」

 

「ううん」Friskは言う「ボクもだよ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

その後いくつかの流れはパターン化してきた。Friskが外へ出て、Sansを見つける、話して、やるたびにどんどん簡単になっていく仕掛けを解いていって、PapyrusとSansに会う。時々、もう少しで通り抜けられそうな時も、まっさきに殺される時もあった。いつでも同じなのは、PapyrusがFriskを殺して、Sansが見ていることだ。

 

いつも、ただ見ている。

 

Friskの右側の首と頬はすでに花で覆われてしまっていた。死を迎える度に、いつでも新しいものが増え、それはFriskに死へのカウントダウンをもたらす。花は、Friskの失態の証だった。

 

決意を抱き続けなさい、頭の中に響いてくる声はFriskが眠りに落ちるたびに囁いてくる。『君は人間とモンスターの希望なんだ』

 

Friskは外へ出るのに充分な決意と覚悟を抱き続けていく事を天と地に願った。再び太陽を見れるように。この地獄の穴から無事でいられるように。

 

一度、FriskはFloweyが提案したSnowdinから出るために他の方法を模索しにいく事に同意した。他の道があるかもしれないし、あるいはうまい駆け引きができるかもしれない。Friskが充分な決意を抱いて充分に持ちこたえられたなら、それはTorielの時にうまくいったかもしれないし、Papyrusだって先へ行かせてくれるかもしれない。それが機能したら、FriskはFloweyを迎えに戻ってくればいい。

 

最初の試みで、Friskが橋から落ちた際、崖を掴んで自身を押し上げるFloweyの存在が無い今、それを証明する事は困難を極めた。それは余計な死を招いて、Friskの右目の側に別の花を増やした。

 

Friskは不安そうに動いて、花に触れた。痛みは無い、けれど鬱陶しい。

 

Friskは二度とその方法は試さなかった。

 

時たま、SansはFriskに挨拶をし、また深く物思いにふけっている時にはFriskは彼にGrillby'sへ行くことを提案し、向かう道すがら宿屋で立ち止まってFloweyを置いていった。Friskがなんの成果も得られなかった時に彼を連れていても意味が無い。それに宿屋は暖かい。Floweyは雪よりも暖かさを好んだ。

 

「なんでお前さんはここへ来ようなんて言ってきたんだ?」Friskの左側を覆う花が残すところ指先だけとなってしまった時、Sansは一度だけ尋ねてきた。

 

「君が悲しそうに見えたから…」Friskはそう打ち明ける。

 

彼はそれを聞いて顔をしかめた「それがお前さんにとってなんになる?」

 

「さあ、どうだろ…」Friskは肩をすくめて「力になりたかったのかな」

 

SansはそんなFriskを不思議そうに見やる。

 

Friskはくすくすと笑った。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskの左側を覆う花が、残すところあと指が三本分となったとき、何の脈絡も無くGrillby'sへと先に誘ってきたのはSansだった。彼は別段悲しそうにも、暇そうにも見えず、椅子から飛び降りて手を差し出してきた。

 

Friskはもちろん、その手を取らなかったけれど、彼はそれを不快には思わなかったように見えた。

 

FriskはSansにマスタードを渡し、SansはFriskにケチャップを渡す。Grillbyがそれらを持ってきてくれた時、Friskはやはり礼を伝えた。

 

「お前さんはなんでそうするんだ?」バーテンダーが以前より少し明るくなって歩き去ると、Sansは尋ねる。

 

Friskは自分自身を指差して、首を傾げた。

 

「ああ、お前さんのことだよ、ハニー」彼は言う。

 

Friskはケチャップのボトルをバーの上に置いて、どう言葉を紡いだものかと考えを巡らせた。「…礼儀、かな」そう口を開く「たとえその人たちにその価値が無いとしても…その人たちに対して礼を欠く理由にはならないよ」

 

「だがお前さんがいつでも礼儀正しく在らなきゃならない理由にもならないだろ」そうSansは言う「ここにいる奴らのことだってお前さんは知らないんだ。そんなもん放っておいて誰とも話さなきゃいいじゃねえか」

 

「うん、礼を欠く事はできる」そうFriskは言う「でもそれはしたくないし、する必要も無いよ」

 

「はん」

 

Sansは少しだけFriskに目をやって、マスタードのボトルを持ち上げた「乾杯」

 

Friskはくすくすと笑みをこぼすーこんなに笑ったのはこの地下に来て以降初めてのことだーそして自分のケチャップのボトルを持ち上げた。「乾杯」

 

 

―――――――――――――――

 

 

次にFriskがGrillby'sへ行く時には、Friskの左腕は花に覆われて麻痺してしまっていた。

 

Sansはそれに気付いて、今回は手を差し出してこなかった。Friskは自嘲する。

 

「ちょっとお前さんに聞いてもいいか?」SansとFriskのフライドポテトがそれぞれの好みの調味料で覆われてから、彼はそう尋ねてきた。

 

「すでに聞いてるじゃない」

 

「へへっ」彼は愛想よく息を吐いた。そうしてひらりと手をFriskへと向ける「あー、なんというか、それは…なんだ?」

 

「花?」

 

「ああ」

 

Friskは左腕を持ち上げたにも関わらず、それはまるで足が痺れてしまった時のようだー感覚が無く、動かそうとしても腕に痺れが走るだけ。

 

「あとで話すよ」

 

「お前さんはSnowdinにしばらくいるんだろ、ハニー?」

 

「ううん」Friskは言う「外に行くよ。一緒に来る?」

 

Friskがそう誘ったのは初めてのことで、Sansは実際その言葉に頭を仰け反らせて笑った。

 

 

―――――――――――――――

 

 

「上を目指して外へ出るんだ」PapyrusがFriskのソウルをバトルフィールドへと引き出す前に、Friskは右手で上を指し示した。スケルトンは混乱と共に魔法を解き放つのを止め、SansはFriskの問いかけに、興味深そうに状況を見ている。

 

「一緒に来る?」Friskは尋ねた。Sansの眼窩に灯る光は萎縮して、Papyrusは静止した。呆然としている。

 

そうして、彼は愉快そうに口を開いた。

 

「唯一、地上へ行くのは俺様たちだ」Papyrusは言って、彼の背後で複数の骨の存在がきらりと揺らめく。「そして、それをお前のソウルで成し遂げる」

 

Friskは瞳を見開いた。あまりに驚いて足を動かすと、最初の骨がFriskの内臓を貫いて、その背中をぱっと赤く染める。咳き込むと、顎を伝って血が滴り落ちた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

「7つの人間のソウル…」一度Snowdinへ戻るとFloweyが説明してくれた。「7つの人間のソウルで、Asgore王は、ぼくらが外へ出るためにバリアを壊すのに充分な力を持った神になれるんだ」彼はそこでこう切り返す「彼らはすでに6つのソウルを持ってる…あとは、きみも知ってのとおりだと思う」

 

Friskは頷く。

 

「後一つだけあればいいんだ。後一つで、彼らは外に出られる…」Floweyはそう言って、ため息を吐き、そっぽを向いた。「わかってるんだ、ほんとは全部、喜ぶべき事なんだって…けど、一度奴らが外へ出たら、人間たちの営みをぶち壊しに行くだろうさ。ぼくはそれには耐えられない。たぶん彼らを助ける事もできただろうっていうのもわかってるんだ…」彼は頭を振って、苦笑いする「なんにせよ、ぼくは全くの役立たずだよ」

 

Friskは手を伸ばして、眉毛の下に咲いている花の花びらに触れた。花はFriskの目をほぼほぼ覆ってしまっている。

 

「ううん」Friskは口を開く「君は友達だもの。ここにいて。見届けてくれて。助けてくれてる」

 

Floweyは静かになり、次いで泣き崩れた。FriskはFloweyの入ったブーツを抱き寄せて、彼に胸を貸した。

 

 

―――――――――――――――

 

 

FriskはSansの見張り小屋の側をいつもより大分遅いタイミングでぶらついていた。再び殺された事からただ心を落ち着けるために、Grillbyのところについ居座っていたのだが、その代わりにPapyrusに二人で話しているところを見つかってしまった。おそらく今回はSansの方からGrillby'sへ誘ってくれようとしたのだろう、手を振りかけたのだが、硬質なブーツの足音が二人を固まらせた。Papyrusは会話の途中の彼らを見つけたようだ。

 

彼は顔をしかめて兄弟へと向き直った「ここに人間がいるな…」そう言葉を紡ぐ「で。お前は奴を捕らえようともしないわけだ?」

 

Sansは何も言わず、頭を垂れた。

 

「お前は奴と友達になろうとでも言うのか、なあ兄弟?」Papyrusは尋ねる。

 

Sansは椅子にもたれかかった。

 

「違うよ」Friskは声を上げる「こっちが彼と友達になろうとしたんだ」

 

兄弟たちの頭が揃ってFriskを振り返った。ここにFloweyがいなかったことに感謝しなければ。もしこの光景を見ればなんて馬鹿な事をしたんだと恐怖で悲鳴を上げただろう。

 

Papyrusは舌打ちし、Sansに向き直った。

 

「なら、奴を捕まえろ」

 

Sansは瞬いた。ゆっくりと。次いで「何?」と返す。

 

「奴を捕まえろ」Papyrusは繰り返した。

 

「何だって?」Sansも聞き返す。今回はより声高に。彼の兄弟は憤慨した。

 

「奴は友達が欲しいらしいじゃないか?」Papyrusは言う「良い友達ならここでのルールってやつを教えてやらねばなるまい」

 

Friskは拳を握り締める。FriskはSansを見た。けれども彼は兄弟を睨みつけたまま、額からは汗が滴り落ちていく。

 

Papyrusはため息を吐いた。「お前、本当はやる気なんてないんだろう?」彼は鼻を鳴らす。「ならいい。俺様が人間の相手をする。俺様はなぜお前がずっと見張り小屋にいるのか理解できなかったが、俺様に成功をもたらすためだったのかもしれないな」

 

「Papyrus…」Sansは声をかけるが、兄弟は聞く耳を持たない。

 

「俺様はいつも一人、ここで全ての事をやってきた。そして機会が訪れた時でさえもな、それに比べてお前はとんでもない甘ちゃんで全く使えない――」

 

「いいぜ、僕がやってやるよ」

 

Friskは敗北に目を瞑った。

 

PapyrusはSansを見、ほんの数秒間お互いにらみ合った後、Papyrusは笑みを浮かべて後ろへと下がった。嘲笑を浮かべて恭しく会釈をし、わずかに震えている人間を手で指し示す。

 

「すべてお前のものだ、なあ、兄弟」

 

Sansは強張ったまま椅子から降り立ち、見張り小屋から出るとFriskの前へと歩み出た。

 

Friskは目を閉じたまま、うつむく。

 

光の奔流がまぶたの裏を満たし、炎で焼き尽くされる直前、Friskは、誰かの涙に濡れた声を聞いた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

「Grillby’sへ行く?」

 

Friskは懲りずにそう提案する。Sansの瞳は揺らめいて、動揺しているようにも見えたけれど、震える声で「ああ」と返答を得ることができた。今回、Papyrusが二人を捕まえる事は無く、平和に食事にありつけた。

 

「そうだな、僕はちょいとお前さんに聞きたいことがあるんだが…」Sansはそう話し始める。Friskはナプキンで手を拭くと、耳を傾けた。「お前さんは…あー、どんなに最低な奴でも、変われると思うか?」彼は今ではもう空になっている皿を見つめている。「もしそいつらが努力すれば、誰でも良い奴になれるのか?」

 

Friskの右目のすぐ側には花が咲いている。そしてもう一度でも死ねば、盲目になってしまうであろうことも分かっていた。

 

Friskは微笑む。心からの笑顔だ。そして頷いた。

 

「なれるよ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

「―そんなに悪いもんでもないって言ってんだろ」

 

「だからこっちはなんて最低な事なんだと言っている!」

 

Friskは二人の姿を目にする前に、彼らがなにやら言い争っている声を吹雪の向こうから聞いた。

 

「こいつは新しいね…」Floweyはそう呟いた。彼はいつでも繰り返される出来事を覚えている。だからこそ、Friskは今まで正気を保っていられたのだ。

 

「お前は!ずいぶん敵と親しくしているようだな!」Friskは、Papyrusがグローブに覆われた手でSansの胸へとジャブを繰り出すのを見るために、吹雪の中で目を守ろうとして上げていた腕を下ろした。背の低いスケルトンは後ろへとよろめいたが、踏みとどまる。

 

「別に親しくしているわけじゃねえ。僕はな、もっと考える余地があるんじゃねえかって言ってんだ…」Sansがそう言うと、彼の兄弟は笑った。「物も考えられなくなったか、Sans。お前が日がな一日していることなんて持ち場に座って、寝て、食って、役立たずでいることだけじゃないか」

 

「黙れよ、Papyrus…」Sansは怒りで唸った。

 

「はっ、こいつは見ものだな、どうやら口答えの仕方を知っているらしい!」

 

「あいつら仲たがいしてんの?」Floweyはささやいて、Friskを振り返る「ねえFrisk、ぼくらこの隙に逃げられー」

 

Friskは頭を振った。「Papyrusに気付かれる」そう口を開く「まだダメ。もし死んだら盲目になっちゃう。そんなリスクは負えないよ」

 

SansとPapyrusは、未だお互いに叫び合っている。Friskは寒さに震えながらも、自分たちがここにいることに気付いてくれるまで待った。

 

そうして彼らがFriskに気付いた時、Papyrusはにやりと笑った。「噂をすれば」攻撃のために骨を呼び出し、Friskはごくりと唾を飲み込む。けれどSansが二人の間へと進み出た。

 

Papyrusが呼び出していた骨が消える「何をしている?」

 

「お前を困らせてやろうと思ってな、僕が役立たずじゃないって事を教えてやるよ」SansはFriskの無事な方の腕を掴み、人間は反射的にひるんだ。「僕がこいつをAsgoreのところへ連れて行く」

 

人間はぴしりと固まる。

 

Papyrusは喉から深い唸り声を搾り出した「よせ」

 

「今に見てろよ…」Sansはその言葉に噛み付き返す。地面が二人の下から離れ、Friskは後ろへ躓く。Floweyは地面に根を張ろうとツタを伸ばしたが触れられず、彼らの周りで光が爆発した次の瞬間にはその場所から消えてしまっていた。

 

Friskが瞬いた時、彼らは気付けばSnowdinにあるものとよく似た見張り小屋の前にいた。けれどその建物の屋根とセーブポイントの周りに雪は無い。そこには明るく青い花が側にあるだけだ。

 

FriskはすんでのところでSansから後ずさり、彼はFriskを落ち着かせるために空いている方の手でFriskの袖を掴んだ。

 

「もう大丈夫だ、Sweetheart?」

 

FriskはFloweyを落とさないように気をつけて、Sansから素早く離れた。Sansは特に引き止めたりせず、両手を掲げる「まあ落ち着けよ」

 

「き…君は…」Friskはしばらくの間、浅く早い呼吸が続いた。自分たちはだいぶうまく立ち回れたと思っていたが、再び胸が締め付けられる思いがして、短い息を吐き出す。「君は、ボクをAsgore王に引き渡すの?」

 

Floweyは必要ならば守りに入るべく、Sansに向かっていくつかツタを伸ばした。

 

スケルトンはそれを一瞥しただけで、Friskの未だ無事な方の目へと視線を戻した。

 

「ハニー、もし僕が、兄弟に嘘を吐いたんだと言ったら信じてくれるか?」そう彼は尋ねる。

 

それにFloweyは眉をひそめた「なんでー」

 

「あいつはお前さんを殺そうとしていた」Sansは言う「僕の持てる限りを尽くして、お前さんをあそこから逃がさなきゃならなかった。あいつが別段僕を塵に返すつもりでもなければ、僕たちの事を追っては来ないさ」そう言って彼は笑った「あいつはいつだってそうすることを望んでいたようには思うがな。ま、僕はそう簡単にはやられはしねえよ」

 

「信じらんない…」Floweyは息を吐く。Friskは眉間のしわを深くして「君は…」彼の上げられた両手と表情を見やる。「君は助けてくれたの?」

 

「お前さんは誰でも良い奴になれるって信じてると言ったろ?」彼はいつもしてやるように肩をすくめる「試すことにしたんだ」

 

彼はゆっくりと両手を下ろし、片手を差し出した。Friskは用心深くそれに視線を落とす。

 

Friskが左手を差し出してSansの手を掴むまでに、一、二分が経った。彼は骨の指で、花で覆われたFriskのものを包み込んで、Waterfallの先へと歩き出した。

 

Friskは死んではおらず、また死にかけてもいない。Papyrusをやりすごせたのだ。

 

Friskは微笑む。決意と共に。

 

 

―――――――――――――――

 

 

彼らは少々苦戦しつつも水を渡り、Friskはもう何度目かになるくしゃみをした。滝からは水が力強くほとばしっていて、尻餅をついてしまったのだ。もしSansがすぐさまFriskを掴み上げなければ、流されてしまっていただろう。落石も、なんの助けにもならなかった。視界には雪など無いのに吹雪でどこかへ連れ去られてしまったり、腰の深さまで水に使ってしまったりとどちらもありえないことだらけだ。

 

また別のくしゃみ。Floweyは心配そうにFriskを見上げた。Sansはおそらく自身の性質的に風邪などひいた事もないのだろう(鼻が無い者の特権だ)、そのため向こう岸に渡るまでFriskを案内しつつ、困惑した視線を投げかけた。

 

乾いた地面まで辿り着くと、Friskは疲れた足を休ませるために座り込み、またくしゃみをした。

 

「大丈夫?」Floweyは尋ねる。

 

Friskは頭を振った。「ううん」そうして口を開く「風邪をひいたかも」Friskは思わず身を震わせた「それに、少し寒い」

 

Friskが起き上がり、再び歩き出すのに数分を要した。すると人間はふらついて、まるで嵐の中の葉っぱのように震えた。

 

視界はぼやけ、体の中はとても熱く感じるのにもかかわらず、凍えそうなほどに寒い。ふと衣擦れの音がして、Friskの肩に重みがかかった。

 

「ほらよ」Sansの声がした。Friskは彼に顔を向ける。彼はこちらを見てはいなかった。彼は、努めてこちらを見ないようにしていた。

 

Friskは袖に腕を通して、彼のジャケットを側に引き寄せた。

 

「ありがとう」

 

Friskは欠伸をして、そのせいでSansが少しの間だけ顔に浮かべた優しい笑みを見逃した。

 

 

―――――――――――――――

 

 

彼らがWaterfallで出会ったほとんどのモンスターは、辺りの匂いを嗅ぎ、しばらくの間じっと人間を見つめたけれど、Sansの存在を見止めると彼らは慌てて逃げていった。スケルトン自身は何も言わず、ただ歩いていただけだ。Friskの麻痺した手は彼のものに握られて、時たまその子供の息を整えさせるために足を止めた。Friskの呼吸は今では重苦しくなっていた。

 

Floweyはブーツ型の植木鉢の中で向きを変えてFriskに何事かをささやき続ける。そして人間もそれに頷く。けれどもSansにはかろうじてそれらを聞き取れる程度だ。

 

「待てよ」Floweyはある時そう呼び止めた。Sansはその声に立ち止まる。今彼の側にいる人間ができるのは、顔から倒れないでいる事が全てだった。Sansは空いている方の手でその体を抱きとめる。

 

「ハニー、大丈夫か?」彼はそう尋ねて、無事な方の目にかかる髪をかき上げてやった。今ではほぼ花に飲み込まれそうになっている。

 

「熱が上がってる」Floweyがそう言うと同時にFriskは頷いて、ゆるゆると地面に座り込んでしまった。Sansは花が説明してくれるのを待つ。「体調が悪いんだ」その生き物は言った。

 

それが合図のように、Friskはくしゃみをした。鼻をすすり、拭った。「ごめんなさい」と口を開く。

 

Floweyの表情が落ち込む。「Frisk、きみのせいじゃないよ」彼は言った。

 

人間は、不思議な光を放つ草に覆われた地面に座り込んだままだ。SansはしばらくFriskの状態を観察し、次いで側に腰を下ろすと腕をついて寝そべった。

 

「しばらくここでゆっくりしようぜ、な?」彼はそう提案した。Floweyは感謝の視線を投げかけ、Friskは再び頷いた。

 

このようにひとところに留まるのは危険な賭けでもある。Papyrus、もしくはUndyneがすぐそこまで迫っているかもしれないーそれか今回ばかりは、彼の兄弟が人間をAsgoreのところへ連れて行くと信じることに決めたのかもしれない。これまで、Papyrusの裏切り者のリストに彼の名前は無かったが、もしそうなれば、彼のすべてをもってしてSansを襲ってくるだろう。

 

これは裏切り行為とされるだろう、と彼は知っていた。けれど、このソウルはモンスターの自由のために破壊するに値しない。別のものならば誰のでもかまわない。でもこいつはダメだ。

 

このソウルは混乱しつつも明るく輝いて、赤く、そして決意に満ちている。けれどまたあったかくて優しく、礼儀正しくて、赦す。Sansはかろうじて優しさと、礼儀正しさと、赦すことを知っている。全ての間違いは、事を急くあまりにその身に鞭を打ってしまったことだ。急いて、酷使してしまった。時々、襲撃した自分自身でさえ自らの過ちを後悔する。

 

FriskはたとえどんなにSansに殺されたり、死に行くままにされたとしても、それによって彼を怨んだりはしなかった。

 

Sansは毎回、子供が死んだことに気付くと激怒した。その子が痛めつけられる度に、その事自体を無かった事にするように時が巻き戻るからだ。彼は当然のように時のいたずらに巻き込まれ、何度目かの巻き戻しを経て全てを諦めた。しかし事の元凶を把握すると、さて、その子供をそこかしこで殺すのに時間を無駄にはしなかった。自らの赤い魔法を行使して、相手が泣き叫ぶのをただ見ていた。

 

しかして時間は再び巻き戻る。その子供はまるで何事も無かったかのように振舞った。そのため彼は、相手は何も覚えていない可能性があるという考えに至ったのだが、マスタードのやり取りをした時や、いつでも彼に対して優しくしようとする行動に、その案は霧散した。決意を武器に秘めた人間と、精神的にもすでに疲れきってしまったモンスターとでは勝敗は明らかだ。けれど、Friskは決して戦わなかった。

 

それに、その子供は故意に時間を巻き戻しているわけではなさそうだった。死んで、時間が巻き戻る。もし違う点があるとすれば、その度に人間に咲く花は数を増し、更に疲れていくようにも見えた所だろう。

 

Friskは座り込んでいた姿勢から脇へと倒れ、Sansの肩に頭を乗せた。彼は驚いてびくりとし、子供を押し返した。眠たげに瞬く瞳と目が合って、舌足らずに倒れこんでしまった事を詫びてくる。

 

彼は固まった。そうして肩をすくめる。「気にするなよ、sweetheart。しばらくここにいるからな」

 

 

―――――――――――――――

 

 

「あれは何?」

 

SansはFriskを背負っていく事にした。不憫な子供は未だ彼のジャケットに包まれたままだ。FloweyはツタをFriskの片手に伸ばして、軽々とSansの肩へと腰かける。彼ができるのは、Sansが彼らをここから出す事に集中している間、周囲を見渡して危険が潜んでいないか見張ることだけだ。

 

Friskはひとつの背の高い青い花を指差す。Sansは立ち止まらなかったが、Friskの問いには答えた。「エコーフラワーだ」

 

「うん?」

 

「あいつらは最後に聞いたものを繰り返すんだ」Sansはそう続けた。端に踏み出して、花のひとつに近寄る。Friskは頭を前へと傾けたが、何も聞こえなかったようだ。なるほど。どうやらガキんちょの熱は着実に上がっちまっているらしい。

 

彼らは最終的に三十分後にはエコーフラワーの花畑を通り抜け、洞窟を見つけた。これまでUndyneの気配は無く、Sansもこのチャンスを棒に振る気は毛頭無い。そのため彼は歩き続け、Floweyも頭を高く上げて辺りに危険が無いか注意した。

 

彼らは細い通路を通り抜け、Friskは二人に止まるようにと呟いた。Sansはそれに従って、子供は弱々しく背筋を伸ばすと、片目を細めた。落胆的な声をもらす。

 

「心に響く歌が通路で反響してるな」Sansは代わりに口に出す「聞いていくか?」

 

「ううん、いい」Friskはぽそりと返して、Sansの別の肩に頭を戻した。彼は再び歩き続ける。

 

少し進むと、洞窟の天井から滴り落ちる水に打たれている像があった。Sansはその水がどこからきているのか知らない。けれどおそらく、この地下の部分は丁度湖の下か何かなのだろう。

 

彼らが丁度出口の側まで近づくと、傘の入っている籠があった。頭上に水が降り注ぐ音が聞こえ、土砂降りの水の勢いが強くなることを懸念してSansはその内の一本を取り上げた。そこでFriskが口を開く「待って」そして同じ様に傘をもう一本取り上げた。

 

「僕らには一本あれば充分だろ、ハニー」彼は言う。Friskは頭を振った「戻って」

 

「何だって?」

 

「戻って」

 

Floweyでさえ混乱しているように見えたけれど、SansはFriskに従った。

 

彼はFriskが赤い傘を開くのをおもしろそうに見ていた。そしてFriskは像にさしてやるためにできるだけ腕を伸ばす。

 

オルゴールが鳴り始めたとき、Sansは思わず笑いそうになってしまった。

 

Friskは彼のセーターの繊維に顔を埋めて小さな悲鳴を上げる。「そっか」Friskは言った「これがあの印の意味だったんだ」

 

Friskが眠ってしまうまで、彼らはしばらくそこに佇んで、Sansは立ち去る前にしばらくオルゴールを見つめていた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskは目覚めなかった

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskが目覚めた時、ただ暗闇だけがそこにあった。瞬きをしようと試みる。瞼が動くのは感じ取れたけれど、辺りは変わらず真っ暗だ。おそらく、ロードする前のどこかに留まっているのだろう。まるで三途の川のような。

 

何か固いものがFriskの手を握った。

 

「そこにいるのか、sweetheart?」

 

Sans?ということは目は覚めているはずで、なんで ー Friskは腕を伸ばして目を覆っているであろう何かを取り去ろうとした。けれどその問題のものに引っかかり、引っ張った瞬間、熱い痛みが頭を走り抜けて、叫び声を上げながら体を折り曲げる。

 

何かがFriskを抱きとめた。Sansだろう。

 

「落ち着くんだ…」彼は言う「落ち着け」

 

「花は引っ張っちゃいけないんだ」Floweyの声がする「そうすると痛みが襲う」

 

「つまりそれは人間のものじゃないってことだな?」Sansが尋ねる。片手が離れ、Friskはそれで彼がジェスチャーをしているのだと憶測した。「僕はこれが人間の体の一部だと思ってたんだが」

 

「違うよ」Floweyは答える「これはなんというか、ちょっと複雑なんだ。あー、ただー」

 

「毎回、ボクが死ぬたびに花が咲くの」Friskは不吉な事を口にした。

 

沈黙が落ちる。Friskの麻痺した手を握っているSansの片手が部分的に強張った。それかおそらく、手首を強く掴んできたのだろう。けれど麻痺しているせいであまり感じ取れなかったために、Friskは気にも留めなかった。

 

「Frisk」Floweyの声色がとがめるようなそれに変わる「あいつに言っても分からないんだから、ほっときなよ」

 

Friskは頭を振った「ううん、分かるよ。彼は覚えてる」FriskはSansがいると思われる方向に向き直る。「ねえ、覚えてるんでしょ?」

 

答えはない。

 

「覚えてるんだって、知ってるよ」Friskは口を開いた。「死ぬたびに君の反応はいつも変わったもの。時々…時々君は何かを考え込んでるみたいだった。何か葛藤してるみたいだった…。それに君はボクが、ケチャップが好きなんだって知ってた」

 

Sansはそれでも答えない。Floweyは最後にもう一度懇願した「Frisk…」

 

「いつからだ…」Sansは尋ねる。彼の声はいつもより低く、押し殺したように聞こえる「いつから気付いてた?」

 

「君に二度目のお礼を言って、それに笑ったときだよ」Friskは口を開く「一度目は衝撃を受けてた。けど二度目は、君はおもしろがってただけだ。それでボクは…ボクは君が覚えている可能性に思い至ったんだ」

 

「お前さんは自分の意思でロードしてんのか?」

 

Friskは頭を振る「自分が覚えているよりももっとたくさんの事を覚えたまま死にたかった、けどそれはできないみたい」

 

また別に考え込んでいるような沈黙が落ちて、Sansはなにやらぶつぶつと呟く。次いで数秒後にはFriskの手を引いて歩き始めた。

 

「Flowey?」Friskは尋ねる。

 

「Frisk、ここだよ」

 

ああ、Friskよりも高い位置から声が聞こえた。再びSansの肩の上にいるのだろう。

 

「ここはどこ?」

 

「Waterfall」Sansが答える「エコーフラワーの側さ」

 

それから彼は立ち止まり、彼の先導が無ければ盲目のFriskもそれに習う。しばらくして、何か暖かくて厚みのあるものがFriskの肩にかけられた。それがSansのジャケットだと気付いて、Friskはぽかんと小さく口を開けた。

 

Sansは再びFriskの手を取る「さあ行こうぜ、sweetheart。無駄に体温を逃がしちまう」

 

 

―――――――――――――――

 

 

ときたま、Friskは頭を脇へと傾けて、エコーフラワーの呟きに耳を傾けた。

 

この辺りで願ったほとんどの人たちは死んでしまったか、もしくは遠くへ行ってしまったのだ、そう、遠くへと。それか名声や人気、自由を得るために王国騎士団へ入団して旅に出たのだ。Sansは知っている。

 

彼が後ろを振り返ると、苦しそうに口を歪める人間を見る事があった。それを見て、彼は速度を落とす。そのおかげで再び彼が歩き始める前に、FriskはSansに追いついた。FloweyはSansの肩の上で体の向きを変える「ぼくは前の時にもそんなに気になるような囁きは聞いた覚えはないな」

 

「僕らはそれどころじゃなかったからな」Sansは答える。

 

「ここはどういう場所なの?」

 

「いろんな奴が休むのに、ここをたまり場にしてたな」Sansは人間のために声を低く落としたまま続けた「願いを口にするのを好む奴もいれば、約束をするのを好む奴もいた」

 

「7つのソウル」一つの花が囁く。

 

「7つのソウルで、Asgore王は神になれる」また別の花が囁き返す。

 

花は地下へと落ちてくる全ての人間に死を約束した。囚われた全てのモンスターに自由を約束し、モンスターたちが自由になった暁には人類を滅亡させる計画も立てていた。

 

Friskは片手でSansのセーターを掴む。

 

「奴らに耳を貸すな」彼は言う「あれはもう死した願いだ」

 

彼らが像のある細い通路に着くと、Sansは以前Friskがそうしたように像に傘を差してやった。Friskは微笑む。いくつかの理由からFloweyは、Sansが無視した像を思案げに見やった。花はそのまま充分に怪しむ。Sansは殺される危険を冒してまで人間を助けてはいるけれど、彼は未だ何の危害も加えて来る様子は無い。全ては順調だ。

 

彼は再びFriskをおぶさって、Friskが傘を持つ。そのため三人は歩きやすくなった。彼らは遠くにぼんやりとそびえる城を背景に通り過ぎる。子供は最初にGrillby'sとWaterfallを見たときにはそれに感激していたため、もしFriskが見えさえしていれば、この風景にも同じ様に感銘を受けていただろうとSansは思った。

 

「ここからだと城が見えるんだ」Floweyは人間にそれを伝える事でSansを打ちのめした。Friskの注意が前方に向いたので彼は再び歩き続ける。

 

「おっきくて」Floweyは続ける「きれいなんだよ」

 

Friskはそれにくすくすと笑う。Sansは自分がいつもの笑みを解いていることに気付いた。

 

Sansは次に見つけた籠へと傘を戻し、Floweyはツタを使って彼らを崖の上へと持ち上げる。その小さい花は、自らが望めば驚くべき力を発揮した ー Sansはその花を肩へと戻すと、彼が息を切らしているのに気付いた。おそらく大丈夫だろう、いやダメか、けれども人間とスケルトンを持ち上げる(Sansが軽いことは明白ではあるが)のはあんな小さな花にとっては重労働だったらしい。

 

今回はFriskも再び歩いた。手はSansに握られたままだ。そしてその状態で、彼らはUndyneに遭遇した。

 

彼女は二人の繋がれた手を見て顔をしかめた。

 

Sansは背筋を伸ばす「僕はこの人間を王のところへ連れていく」

 

「花も一緒にか?」彼女は彼の肩に腰掛けている花を顎で指し示し、Floweyは反射的に頭を下げた。

 

「こいつはただの金魚のフンだ」

 

Undyneは鼻を鳴らす「私たちは皆、お前がただ兄弟の後釜を狙っている事を知っている」彼女はそう吐き捨てて、Sansは彼ら全員がその考えを止めてくれる事を祈った。もし彼が怠け者でなければ強奪者で、でなければ裏切り者だ。

 

この地下世界のルールだ。殺るか、殺られるか。誰も信じない。自分に親切でない相手や、クソのような借りがある気にさせてくれる相手を殺すのは簡単だ。

 

王国騎士団の騎士団長は自らの槍を振り回し、彼らに突きつけた。

 

「これをやってるのは、僕らが自由になるためだぜ」Sansはそう言って、Friskと繋ぐ手を更に強く握った。人間は彼の後ろで弱々しく不平を零す。

 

「仮にそうだとしよう」Undyneは口を開く「だが誰であれ人間を王の下へ連れて行くのは右腕であるこの私だ。そして私はその役目をお前に譲る気は無い」

 

クソいまいましい地下の競争もな。お前は問題を解決するのに皆が協力し合うと思っているのだろうが、どのモンスターも結局自分の事しか考えてはいない。

 

Sansは後ろへ下がるとブラスターを呼び出す「まあ、僕もお前さんに譲る気はないがな」

 

Friskは彼の袖を掴む。彼は振り返らなかった。

 

「彼女を傷つけないで」Friskはそう懇願した。Sansはなんとも馬鹿馬鹿しい注文にしばし固まる。自分がまさに王国騎士団の団長に殺されようとしているというのに、そんなFriskの口から出てきた言葉は団長の無事だって?時々彼は優しさという言葉は馬鹿と同義なんじゃないかと疑いたくなる。

 

「お願い」Friskは囁く「彼女を傷つけないで」

 

「Frisk」FloweyはFriskに向き直る。少なくとも花には分別があった「ぼくらはー」

 

「ダメ」Friskは途中で遮った。その意思は固い「彼女を傷つけないで。今後も誰も。何があっても」

 

Undyneは気を散らすと、攻撃を開始した。

 

SansはFriskを離し、手を掲げると団長を走る途中で押し留める。そして手を前へとかざし、彼らの前方の壁へとたたき付けた。

 

「ダメ!」Friskが叫ぶ。周囲に腕を彷徨わせて、Sansを掴もうと伸ばす。「Sans!彼女を傷つけないで!」今では花で覆われてしまっている瞳から涙が零れ落ちた「お願い」

 

Sansは顔をしかめたが、Friskが彼の袖に顔を埋めて嘆いても腕を下げる事はなく、じっとFriskを見つめた。

 

Floweyは二人をツタで掴み「行くよ!」と小さく叫ぶ「きみが彼女を傷つけたくないならここから離れるんだ」

 

Friskは顔を上げるとSansの袖を引いて、不自由な目のまま走り始めた。Floweyが、Friskがつまずいた時には事前に引き戻せるようにと身構えた時には、Sansはブラスターを霧散させ、未だ壁に打ちつけられた影響でふらついているUndyneをFriskが安定して走ってやり過ごせるよう手を貸した。Sansの攻撃はおそらく彼女を殺すのに不十分ではあったけれど、彼女をしばらく足止めするのには充分だった。

 

彼らは逃げた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

FriskはなぜUndyneを傷つけたくなかったのかを説明しなかった。Sansもまた、最初の数回にわたる試みがFriskが泣いて終わるに留まったため、その事についてそれ以上言及するのを止めた。Floweyはあまりに多くの魔法を使ったために疲れきってしまって、子供の片腕に隠れるようにして眠っている。Friskはぐったりと頭を垂れていた。Sansでさえ、最後のロードからUndyneと一戦を交えそうになるまで一切休息を取る暇が無かったため、少々うとうととしていた。

 

彼らはWaterfallの反対側へと続く木の橋の側にある、地面の小さなスペースに腰を下ろしていた。Undyneは追って来ない。おそらくSansは、自分が思っているよりも彼女を強く投げつけた為に死んだのだろうと思った。もしくは好機を伺っているのか。それか別の場所を探しているのかもしれない。けれど今彼らには休息が必要だった。なぜならもし彼女が生きていた場合、彼女は後々彼らを見つけるだろうからだ。

 

FriskはSansの隣に腰掛けて、彼の肩に頭を寄せている。今回彼はそれを気にしていないようだ。

 

Sansはそっと目を閉じる。眠るのではなく、ただ休むために。

 

「他の人たちを傷つけるべきじゃないよ」Sansが、Friskはもう眠りに落ちただろうと思っていた頃、Friskはふいに呟いた。彼は瞬いて、すぐ横にある頭を見下ろす。Friskは下唇を噛むと言葉を続ける「常に優しくあること」しばし間を置いて、「ときどき、ボクたちが優しさしかあげられるものが無いのだとしても、ときどき、その優しさは十分たり得るんだよ」

 

Sansはその言葉を頭の中で反芻しながら眠りに落ちた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

その後、Undyneは彼らを見つけた。SansはFriskを自分の背後へと引っ張り、Floweyは彼の上に掴まって、Friskと彼の腕にツタを巻きつけた。そうすればSansが逃げる時に確実にFriskを守れる。彼は戦えた。戦うべきだった。けれど子供がそれを望まず、彼もまた、暴力やブラスターのビームで全てを片付けたりしないようにすると約束した。

 

常に優しくあること。ときどき、僕らが優しさしかあげられるものが無いのだとしても、ときどき、その優しさは十分たり得る。

 

「彼女を傷つけないで」Friskは彼のセーターに顔を埋めながら再び呟いた。

 

「わかってる」

 

SansはUndyneが行く手に呼び出してきた槍を避けた。その内の一つが子供が着ているジャケットを貫く。けれど幸いな事にかろうじてジャケットのみで、子ども自身は無事だった。

 

彼らは死の淵にいた。Sansはかかとを木へとめり込ませ、端へ追いやられる前に横滑りして止める。

 

Undyneは彼から数メートル程離れたところにいる為、あとは踵を返して足を踏み出すだけだった。

 

彼女は槍で橋を両断した。橋の一部が落下し、闇と水しぶきが辺りを包む。Sansは、彼女が鎧の下で満足げな笑みを浮かべているのが見えた気がした。

 

 

―――――――――――――――

 

 

「Sans?Sans!Sans、起きて、お願い、嫌だ…嫌だよ…」

 

Sansは誰かが上の方から自分を呼ぶ声を聞いて目を覚ました。何かぼんやりとしている光が見えて視界が鮮明になると、人間の顔が上にあるのが目についた。頭の半分が花に覆われてしまってわかりにくいが、Friskだ。丁度Friskの頭上に見える光は、まるで頭に光輪が乗っているようで、おそらく泣いているのだろう、涙で濡れていたけれど、彼は声をかけられなかった。FloweyはSansの胸の上にいて、彼が目覚めると、ほっとしたように息を吐いた。

 

「目を覚ましたよ」Floweyはそう告げる。

 

Friskは息を吐き出して、後ろに倒れた。泣きじゃくりながら、涙に濡れた笑い声を漏らす。

 

「よかった」

 

Sansは体を起こそうとして苦痛に顔を歪めると、結局再び倒れこんだ。Undyneもしばらくは追って来ないだろう。

 

FriskはFloweyをSansから下ろすのに胸の辺りに手を彷徨わせ、そして ― 花のベッド?だろう ― 彼らが乗っている花のベッドにFloweyを下ろした。その花は彼らが落ちてきた衝撃を和らげるのに十分な厚みがあった。そして金色だ。まるでFriskに咲いている花のように。Sansは、もし子供が横になれば、おそらくそこに溶け込んでしまうだろうと思った。

 

「ハニー、ちょいとしばらくここにいてもいいか?」Sansは弱々しく咳をする「あいつを突破するのには少々“骨が折れてな”」

 

Friskはくすくすと笑って、吹き出す。Sansもとにかく笑った。Papyrusならかろうじて笑う程度だったろう。

 

「うん。どこにもいかないよ」Friskはそう口を開く「なんにせよボクは君無しじゃ何も見えないもの」

 

Sansは、それには返す言葉を持ち合わせていなかった。人間を覆っている花の内の半分は彼のせいだ。彼自身のFriskを殺す行動に、彼の兄弟に密告するという裏切り行為に、そして健康への注意を疎かにすることによって。

 

Sansがジャケットを渡してから、Friskはそれを脱ごうとはしていない「ガキんちょ、お前さんはまた、水のせいで具合を悪くしたりやなんかしてないだろうな?」

 

Friskは頭を振った。

 

彼は満足そうに鼻を鳴らすと目を閉じる。息を吐いた。

 

「ありがとう」Friskは口を開く。

 

「そりゃ何に対してだ?」

 

「彼女を見逃してくれた事」Friskは言う。

 

Sansは再び襲ったよくわからない混乱に口を歪めた。Friskはゆっくりと腕を伸ばし、彼の頬骨をそっと探す。スケルトンは、Friskが頬骨から口元へと指を滑らせると顔を強張らせた。

 

Friskは弱々しく笑う「君の顔が見えたらよかったのにな。君、今きっとおもしろい顔してる」

 

SansはFriskの右目があるであろう場所に目をやった。「とにかく、僕としてもこいつは目障りだな」彼は言う。人間は、その言葉には再び頭を振って否定するように見えた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

再び移動し始めると、dummyが彼らの行く手を塞いだ。そいつは小声で何かを呟き続けていている。それがSansの癪に障ったようで、危うく切り捨てるところだったけれど、Friskが引き止めたために彼は思いとどまった。

 

彼らはどうにかやり過ごそうとした。しかしdummyは憤慨して、襲い掛かってくる。Sansはできる限り避けようとしたけれど、水が動きを妨げる。それにFriskとFloweyにも気を配らなければならない。

 

相手の攻撃がもう少しでSansに当たる、というところで、Friskが彼を脇へと押しのけ、代わりに攻撃を受けた。

 

Sansが目覚めると、Friskが再び彼を見つめていた。けれども今回、人間は叫ばなかった。Friskの口はショックでぽかんと開いている。その口が声を発した時には、Friskは後ろへ仰け反って笑い出した。今回、Sansは起き上がる。

 

SansはFriskに、何に対して笑っているのか尋ねたけれど更にひどくなっただけで、Friskは彼によりかかった。

 

彼は新しい花が増えていないかどうかFriskの顔を調べ、無いのを確認すると、今度は腕と手に指を滑らせる。すると、右の手首に新しい花があった。

 

「ハニー、二度とこんなことはしないでくれ」彼は言って、Friskは頷く「うん」そうしてまた別の笑みをこぼした「気をつけるよ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

Undyneは再び彼らを見つけ、SansがFriskに許可を得ようと振り返ったときには、Friskは彼に一言だけ「ダメ」と固く告げた。Friskは彼が何を言わんとしているか見る必要さえ無い。彼のセーターをただ強く握り締めた。

 

だから彼は避けた。Friskが彼の後ろにいることと、FloweyがFriskの腕に収まっているのを確認する。花はSansへの攻撃による被害をできるだけ防ぐよう努め、彼はそれに感謝した。Undyneはそう簡単に通してはくれない。彼女の魔法はFriskを同じ場所へと押し留め、そのせいでSansは瞬間移動でFriskをここから逃がしてやる事ができない。

 

けれどFriskは戦う事を拒否した。

 

防ぎ損ねた攻撃がSansを襲い、彼を弾き飛ばす。「1」しかない体力はダメージを持ちこたえるのに何の役にも立たず、Friskは彼が消え去る気配に息を飲む。数秒後には、彼は意識を失った。そしてまた数分も経たずに、彼らはエコーフラワーが1本だけ佇んでいる細い通路に戻ってきていた。

 

「Sans?」Friskは尋ねて、彼の顔に触れるために片手を持ち上げる。彼は慎重にその手を取って、自分の頬骨へと導いた。「ああ、僕はここにいるぜ、sweetheart」

 

「よかった」Friskは息を吐く「よかった」

 

彼はFriskの右手首を見下ろして、新しい花が、先程できた花の隣に咲いているのを見つけた。

 

大所帯、且つUndyneの魔法で一所に押しとどめられている状態で彼女と相対するのは困難を極めた。Friskの右手に後がなくなるまで、時間は戻って、戻って、戻り、そうして花は腕にまで這い上がってきた。そしてついに、ついにFloweyがなんとか一撃を逸らし、Undyneは疲れきっているように見えた。

 

Sansは一瞬の隙を突いてFriskを掴み、そして逃げる。

 

一度、彼らの後ろで脅し叫ぶUndyneから数メートル程離れ、彼は短い距離を瞬間移動する。そしてもう一度、またもう一回 ― 集中的な瞬間移動は彼女から距離をとるのには充分だったけれど、彼の疲労はその限りではなかった。

 

一度、彼らの足が熱く固い地面に触れると、彼は止まった。FriskはSansを押しのける。それに彼は少しよろめいて、ショックを受けた。Friskが背を向けて吐き戻すまでは。

 

Sansはたじろいだ。彼は瞬間移動がその力に慣れない者にとって、どれほど方向感覚を失わせるものであるかというのを忘れていた。

 

「もう」Friskは身震いして、震える息を吐く。髪には吐瀉物がついていて、Friskは口元を袖で拭った「もう二度としないで」

 

「そいつはできねえ約束だな、sweetheart」彼は言った「ほらよ、そいつをきれいにしちまおうぜ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskにはもう両腕の感覚が無かった。そのためSansがFriskの身だしなみを整え、手当てをし、Floweyの面倒を見た。Friskは、彼と花がうまくやれている事を嬉しく思った。まあ厳密に言えばうまくやっているわけではないのだけれど、彼らは協力するという事を学んだのだ。

 

実のところ、彼らはこれから何をすればいいのか、全く見当がつかなかった。エコーフラワーの囁きは聞いた。

 

バリアを打ち砕くには、7つの人間のソウルと1つのモンスターのソウルがいる。王は6つ、そしてFriskで7つ目だ。Friskの頭に響く声は頑として、人間とモンスターの希望なんだと主張している。たとえモンスターたちが恐ろしい者たちなのだとしても、それは窮屈な地下に押し込められていていい理由にはならない。

 

SansはFriskの足も、腕と同じ様にかろうじて感じ取れるくらいの感覚しか残っていないということを知らない。花は両腕を取り込んでしまい、おそらく次は胴体だろう。けれど足は麻痺し始めてしまっている。

 

もし地上へ出る事ができたとしてもこの状態ではどうなるのだろうか?もしこの花が取り返しのつかないものなのだとしたら?もし二度と普通の生活には戻れないのだとしたら?もし…

 

SansはHotlandに向かっているのだと伝えた。その先に王立研究所があるのだとも。Friskは、まだ花が自分の足を侵食していないと分かっているにも関わらず、歩くのに足の感覚が感じられなくなっていた。

 

その科学者の名前はAlphysと言い、皆が集まり、Floweyを目にすると「あなたは」と彼女は叫んだ。Sansでさえ、彼女が人間を助けるなんてなんて裏切り者なんだと叫び始め、Floweyに詰め寄る時には後ずさった。「あなたがしていることをご両親が知ったら喜ぶかしらね、Asriel?」それにはFloweyが叫び返した。黙れ黙れ黙れ、と。

 

けれどもAlphysは戦わなかった。その代わりに爆発の類があって、SansはMettatonと言う名の誰かと戦っていた。ロボットだ。Friskは記憶を掘り起こした。ロボットは本来なら娯楽のために作られたのだが、人間を滅ぼす目的に変更されたらしい。けれどSansは、MettatonがFriskに指一本触れる事を許さなかった。Friskはお礼を伝えたかったけれど、今では喉も麻痺し始めてしまっていた。Friskは後どれくらいの花を体に抱え込める余地があるのか疑問に思った。

 

Mettatonがしてきた事は質問を投げかけてくる事のみだった。ただもしSansが間違った返答をすれば、彼らは全員死ぬことになっていた。けれどもSansは確信を持って全ての質問に答えていた。自惚れさえあったように思う。Friskが聞いたところによると、結局、彼らは放っておかれることになったらしい。Alphysは長い事研究所を避けた。

 

Friskは足を引きずって歩く、足を持ち上げるのに力を入れるのも億劫だった。

 

「なあ、ハニー?」Sansはそう呼びかける。Friskはできるだけ顔を上げた。彼はこれで望みを失うべきじゃない。もし何かあれば、Friskは彼のために最後に一つだけしてあげられることがある。「急ぐ必要がありそうだ。そう緊迫しているわけじゃあないがぼやっとしてたら僕らが小火(ぼや)になっちまう」

 

Friskはくすくすと笑う。そう、そうだ。コアはマグマと溶岩のすぐ側にある。もしくはここをHotlandと呼ぶのだろうか?Friskは覚えていない。けれどSansがジョークを言ってくれるのはいいことだ。最近彼はよくジョークを言ってくれる。そうしてFriskが彼の顔に触れる時はいつでも、その顔は笑っているように思える。Floweyでさえ「信じらんない」とスケルトンの肩から鼻を鳴らした。

 

Friskは歩くのに最善を尽くした。決意を抱く、Friskは繰り返し歌う。決意を抱く、CharaはFriskの頭の中で囁く。人間とモンスターの希望。Friskには、この地下に囚われるに値しない友達がいる。FloweyとSansはこの地下に囚われるに値しない。おそらくPapyrusとUndyneも一度自由になればこれ以上狂気に飲まれたりはしないだろう。

 

PapyrusとUndyneが未だに二人を追ってきているのは間違いない。そのせいで、彼らはできるだけ距離を稼ぐために歩いていた。立ち止まれない。なぜなら今では全員がSansが裏切り者だと知っているからだ。そしてもし彼らが捕まればSansは死ぬだろう。そしてそうなればそれはFriskのせいだ。

 

だから彼らは歩く。そしてHotlandで別の番人に出くわし、Friskはまた二度死んだ。なぜなら彼らはとても疲れてしまっていて避けるのが遅く、Friskは今では本当に足を一本失っていると思っている。

 

Sansはイライラしはじめている、とFriskは感じた。そのため彼に詫びたのだが、SansはFriskの髪を梳いて、悲しそうにするだけだった「いいんだ、sweetheart、大丈夫だ」

 

Mettatonは何度か彼らと戦った ― もしFriskが見えたなら馬鹿馬鹿しく思った事だろうが、見えなかった。そのため判別できるのは耳から入ってくる情報のみなのだが、それでも馬鹿馬鹿しい事に変わりは無かった。クッキングショーから、ニュースキャスターでのリポートまでに至り、FloweyはPapyrusやUndyneに見つかりたくなければスポットライトには踏み込まないようにと指摘した。

 

彼らはなんとかホテルで休む事ができた。Sansは、この辺りのモンスターたちがどうやら友好的でないらしいとみてからは、いつでもFriskの側を離れなかった。そうして、Friskは眠る事だけを考えていたけれど、Sansは正しい。Friskが見つかって、もし捕まりでもすれば、FloweyとSansは死んでしまうだろう。

 

決意を、Charaは繰り返す。君の友達のために。僕の友達のために。

 

故に彼らは歩いた。そしてMuffetは何度も何度も何度も、Friskの右足の自由が利かなくなり、足を引きずらないと歩けなくなるまでロードさせた。Sansはそれにだんだん機嫌を悪くしていき、仕舞いにはMuffetを殺してしまった。

 

Friskは泣いた。

 

彼らはしばらくの間言葉を交わさなかったけれど、Friskはむりやりロードしようとはしなかった。彼らは歩き続ける。Floweyが、Sansの上に居座って辺りに危険が無いか調べる間、SansはFriskが歩くのに体重を支えてやった。

 

今回、Sansが再びしゃべり始めたとFriskが思った時には、彼らはCoreに到達していた。彼らはMettatonと戦い、FriskのソウルはFloweyを守って砕け散った。そして彼らは全員ホテルで目を覚ます。今度は、別の足を対価に支払う時であると、人間は知っていた。

 

今回、Muffetは死ななかった。Mettatonもだ。Sansは避ける度に、ロボットをばらばらにしてやろうかと唸り続けていた。Friskは彼がそうしなかったことをありがたく思う。

 

「クソッ」SansはFriskの側に来て固まり、背中と足首に手を走らせると毒づいた。

 

Friskは大丈夫、と伝えた。

 

「いや、お前さん、大丈夫じゃないだろ」とSansは返す。

 

君のせいじゃない。

 

Sansはしばらく押し黙ったままだった。そうしてまた歩き続ける。

 

「僕は、お前さんを地上へ連れて行く」彼は言う「気にすんな。何があっても、sweetheart、僕はお前さんを地上へ連れてってやる」

 

Friskは、守れない約束はしないで欲しいと彼に伝えたかったけれど、もはや喋る事ができなかった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

かつて、Asgore王は良い王であったかもしれない。いいや、Sansの知る限りAsgore王はかつて良い王だった。けれど喪失による悲しみと、自暴自棄になったことが男を変えてしまった。王国は希望を失い、彼の二人の子供の死は、深い悲しみと共に妻が離れていくに至った。彼は非情になり、今では、彼にとって全てのものは、目的のためにただ費やすことのできる単なるものでしかない。

 

Sansは知っている。昔、Papyrusはその頃から野心家ではあったけれども、彼は兄弟のことを気にかけてくれていた事を。昔、誰もお互いを傷つけずに地上へ出るという希望を掲げていた事を。昔、彼はそれほど暴力的ではなかった事を。また、昔、CharaとAsrielが死に、Toriel女王が去って、これで終わりだ、僕らは永遠にここに閉じ込められたままなんだ。と、それこそ自分たちで7つの人間のソウルを手にいれ、強行突破をしない限りはと。皆が思っていたことも、Sansは知っている。

 

昔、殺人は時々、自らが欲しいものを得られる行為だということを皆が学んだ。昔、Sansが人間の子供をもう何回殺したか気にしなくなった頃から、時間は頻繁に巻き戻しを繰り返すようになった。彼はただ殺せばよかった。けれど結局、彼は殺す事を止めた。どんなに殺したところで、全てが再び巻き戻ってリセットされてしまうからだ。

 

それからまた別の昔、優しさと決意を兼ね揃え、赤いソウルをした人間が落ちてきた。また別の昔、Asriel Dreemurr王子のソウルは宮廷科学者によって花へと入れられたのだと言って、王子は今では彼の肩の上に腰を据えている。また別の昔、Sansは幸せを感じる事がどのような事だったかを思い出し、そしてそのために戦いたいと思った。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Floweyがかつて、リセットとロードの能力を持っていた頃、その力の使い方を知っていた。けれどどういうわけか、Friskが落ちてきた時にそれはFriskのソウルへと受け継がれてしまい、Floweyはその力から解き放たれた事に責任を感じている。見ての通り、彼ができたのは、他の子供たちが殺されるのを防ぐためにリセットを繰り返すことだけだった。そして彼の魔法は、落ちてきた6人の子供たちを守るのには不十分だということも分かっている。だから彼が疲れてしまって、あるがままに任せてしまうと決めるまで、ひたすらにリセットを繰り返した。

 

そして人間が落ちてきた。Charaのように真っ赤なソウルをした人間だ。見た目もCharaに似ていた。Charaのように、優しくて、決意を抱いた人間だ。

 

だから彼はその人間と一緒に行く事にした。彼は人間を助けた。彼は裏切り者だけれど、その親友と、すべてのモンスターたちを地上へと連れて行くと約束したきょうだいには誠実だった。彼はCharaと約束をした。いつでもFriskの存在は、Charaとの約束を思い起こさせる。

 

なので時々、彼は戦闘の途中で死んで、自分は地獄へ落ちて、FriskとSansが地上に出る事を望んだ。けれどそんなことは起きなかった。なぜならいつでも新しい花と共にFriskはロードされ、Floweyは相変わらずだったから。

 

彼はSansの肩の上で、なぜ彼らがこうしなければならないのかという父親の話を聞いている。そしてなぜ人間が罰せられるに値するのか、考えを語る、けれどこれは違う。これはAsgore王がするような事ではない。もはやAsrielの知る父親ではなく、Floweyが今目の前にしているのは敵だった。

 

彼はできるだけ長くSansとFriskを守る。たとえFriskが全身を花に覆われて、それに耐えられなくなってしまったとしても。

 

 

―――――――――――――――

 

 

Friskは今ではもう立つ事ができない。彼を傷つけないで。彼を傷つけないで。彼を見逃して。Asgoreはおかしなものでも見るようにFriskを見やり、Sansは防戦一方で何も言わなかった。けれど火球がFriskの側まで迫った時、彼は反撃を始めた。Friskはいずれにせよ何も見えない。彼とて王を殺したくはない。彼はただ王がこれ以上戦えなくなるまで弱らせるだけだ。

 

馬鹿な子供だ。馬鹿な人間の子供は優しさを信じ、やっとのことで彼の胸郭まで這い進んでこようとしている。そんな子供と友達でありたいと思っている彼自身も馬鹿だ。そしてこんな全ての状況を作り出したクソのような境遇も馬鹿馬鹿しい。

 

皆が望みを捨てていない別の生では、彼ら全員が友達であり得ただろう。それにこの全ての失態は必要ない。そしてもちろん、それだとこの地下から出る事は迅速には適わないだろうけれど、それでも平和で幸せなものになっただろう。

 

Floweyは今しばらくSansの肩の上にいたけれど、いい考えがあると囁いてセメントを壊し、戦うSansを一人残して床へと消えていった。スケルトンはそれに対して毒突く、しかし花が何を計画したにせよ、それにはおそらく実行するだけの価値がある。彼はFriskをこのように残していくことはしないだろう。

 

FriskはSansの後ろに座っている。両手は地面の上に。誰も傷つかないようにと未だに祈っている。見えず。動けず。喋る事でさえやっとの状態で。不憫な子だ。

 

SansはAsgoreに打撃を一撃与え、Asgoreは肩膝をつく。戦闘で弱っていた。

 

「それで?」王は尋ねる。激しく息をついていた「やればいい」

 

Sansは未だ背後に骨を従え、未だAsgoreの息の根を止めるのにブラスターを呼ぶ事もできる。それは簡単だろう。一撃だ。一撃で王を殺し、Friskをここから連れ出して、地上へと出してやれる。

 

彼は片手を上げる。

 

そして下ろした。

 

後ろにいる人間へと向き直り、腕に抱き上げると再び王と向き合う。

 

「いや」

 

Asgoreは見上げ、顔をしかめる。「いや?」

 

Friskは彼の中で動き、彼の胸に顔を寄せた。何かを急いで伝えようとしていて、両手をせわしなく動かし、Sansはかろうじてそれを避けた。けれどそのさなかに「ありがとう」と伝えたかったのだということは受け取った。

 

「常に優しくあること。ときどき、僕らが優しくする事しかできなくても」Sansは言う「ときどき、その優しさは十分たり得る」

 

Asgoreは笑った「ここじゃそんなことは通用しないぞ、若者よ。この世界は殺るか、殺られるか、だ」

 

Sansは頭を振って、Friskを側へ引き寄せた。

 

「もうその必要も無いさ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

Sansは緊張した面持ちで、Asgoreを通り過ぎる。けれど驚いたことに、王は彼をそのまま行かせた。Asgoreは立ち上がりもせず、ただ頭を垂れたままだ。Sansはバリアまで歩み寄り、じっとそれを見つめた。

 

バリアを通り抜けるには、7つの人間のソウルが必要だ。もしくは、モンスターのソウルを1つと、人間のソウルを1つ。誰でもそれを成し得た者がバリアを通り抜ける事ができる。彼は腕の中の熱っぽい人間を見つめた。

 

「なあ、sweetheart」Sansは笑って、Friskを見下ろす。Friskはより彼にしがみつこうとしていて、その姿に楽しくなってしまいそうだ。「お前さんまだ大丈夫そうか?」

 

Friskはゆっくりと頷いた。

 

彼の正面にあるセメントが壊れ、Floweyが現れた。彼はツタをボール状に包んで息を切らしていたが、Sansを見てツタを引き戻すと、それぞれ違う色をした6つのオーブが姿を現した。

 

Sansは息を飲んだ。

 

違う、オーブじゃない。ソウルだ。6つの人間のソウルだ。

 

「ぼくたちは…ぼくたちはバリアを抜けられるよ」Floweyは咳き込む「もしくはあと一つでもソウルが手に入れば。バリアを抜けて、あと一つソウルを取って、戻ってきて、休んで、それからバリアを壊せば」彼は気まずそうに震えた「わからないや、それかFriskだけでもここから出すか、どうにか」

 

それはいい考えだ。1つだけソウルを使って、他を地上から調達する。そして戻ってくれば全てが丸く収まって、Friskとモンスターたちを全員解放できる。

 

「ダメ」Friskはかすれた声を出し、Sansのセーターを掴んだ。

 

「Frisk!」Floweyが叫ぶ「ぼくらがバリアを壊すには7つの人間のソウルがいるんだよ、ここには6つしかないんだ」

 

Friskはぶんぶんと頭を振って、歯を食いしばった。動く事さえも痛みが伴う。7つ、Friskはなんとか伝える。7つあるよ。

 

「だめだよ、ぼくたちは…」Floweyは固まって、じっと人間を見つめる「…だめだ」

 

Friskは自分自身を指差す。

 

Sansは危うくFriskを落としそうになった。

 

Floweyは信じられないものを見るようにFriskを見つめたまま、SansはFriskを抱える腕に力を込める「お前さんは底なしの馬鹿か?ここまで来て諦めるな ― 諦められるかよ ― 」

 

「違う…諦めてなんか、ないよ」Friskはしゃがれ声で伝えた「もう地上には戻れないから。こんなほぼ花に覆われた姿じゃ。はは」Friskは弱々しく笑う「ゆっくりと死に行くだけだよ」

 

「そんなこと言うな」

 

Friskはくすくすと笑った。「最後にひとつだけ。人間とモンスターの希望。やらなくちゃ。ボクのソウルを使ってよ」Friskは弱々しく微笑む「皆を自由にしてあげて」

 

「Frisk、だめだよ」Floweyは嗚咽を漏らす。

 

Sansは、Friskの頬に2粒の水滴が落ちるのを見、そして自分も泣いているのだという事に気付いた。

 

「そう長くないから」Friskは口を開き「お願い」Sansのセーターを固く握り締めた。「お願いだから」

 

赤いソウルがFriskの前にちらりと揺らめいて、Floweyは泣き始めた。Friskの胸は未だ動いている。上に、下に。けれどだんだんとゆっくりになってきている。Sansは顔の側に浮かぶ赤いソウルを見た。

 

Friskが何かを囁いている。けれど聞こえなくて、彼はFriskに頭を寄せた。

 

「もうちょい近くで言ってくれるか?」彼は尋ねる。Friskは眠りに落ちていて、ソウルはFriskの前でだんだんと明るさを増してゆく。彼はそれを中へ押し戻す必要があった。そうすれば、子供は息をしていられる。彼の涙がFriskの顔へと降り注いだ。

 

けれど彼は聞く必要があった。なぜなら子供はかろうじて話す事ができるし、それを聞かないのは礼を欠くことになってしまう「僕はまだ、お前さんの言葉を聞き取れてないんだぞ」

 

 

―――――――――――――――

 

 

Asgore王は良い王だった。彼はUndyneとPapyrusに、人類を滅ぼす計画さえ撤回した。とにかく、人間は決意やその他の力においてもモンスターより強いという事を彼らは知っている。そのため自分自身を再び地下へ縛り付けるような事をわざわざする必要は無い。

 

Flowey ― いや、Asrielは、時々王が7人目の人間の話を伝えるのを耳にすると言った。その犠牲の話。自分を殺そうとしていた者たちのために自らのソウルを諦める道をどのようにして選んだのか。

 

AsgoreはFloweyがAsrielだということを知らない、もちろんだ。かわいそうな子供は花のまま。そして彼も自分の状態について両親に話す気は無い。特に、少なくとも一回は両者に殺されそうになった事のある今では言えるはずもない。

 

AsrielはSansのことを狂っていると言う。けれど見下しているわけでもない。「ぼくはあんたの事を心配してるんだ、だからもうそんな馬鹿な事はやめろよ」といった風に。彼はそれを滑稽に思う、その小さいやつの花びらを狙い撃ちにするのが好きだった時もあったというのに。地上にあるのと同じ家には今では植物が生えている。Asgoreが人間たちとの関係を取り持とうとしている間に、彼らはEbottに小さな町を造った。Papyrusは彼とそれほど多くは語らなかったけれど、侮辱もしなかった。

 

彼らはFriskをRuinsの入り口に埋葬した。落ちてきたのと同じ場所だとAsrielは言う。Charaが埋葬されているのも同じ場所なのだとも言った。一番初めの人間、彼らのきょうだい、決意を抱いた最初の赤いソウル。Friskを覆っていた花は、バリアの消滅と共に消え、おそらくCharaは最後に安寧を見つけて先に言ったのだろうとSansは言った。Asrielは何も言わなかった。

 

Sansは毎月かそこら、Ruinsの入り口を訪れる。別の花畑がそこに広がっていた。丁度Friskを覆っていたような金色の花、そしてCharaの墓に咲いていたもののようだ。

 

Sansは時々そこへ横になった。Friskが落ちてきた頭上の小さな穴から太陽を見上げる。彼はロード、もしくはリセットをする方法はないかと考えた。Friskを取り戻し、他の道を見つける、けれどもしそんな事をすれば、それは子供の犠牲を無駄にすることになる。

 

だから彼は訪れる。時々Asrielが彼と共にやってきて、来ない時もあった。いつも同じだ。Sansはそこへ横になって、待つ。Friskはいつも死んだ後はロードしていた、そうだ。そして時々、それには少し時間がかかった。だから彼は待っている。Asrielは彼を狂っていると言う。ひょっとしたら、彼もそうなのかもしれない。

 

「ノック、ノック」

 

(そこにいるのは誰?)彼の頭の中で、Friskの声が尋ねる。

 

「花さ」

 

頼む。

 

(花の誰?)

 

「今日のお前さんの花だよ…」

 

戻って来いよ。

 

「…Sweetheart?」

 

すぐに。

 

しかし、誰も来なかった。

bottom of page