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【Chara’s Theory of Determination】

 

 

Charaの死。そして新しい時代の始まり。

 

―――――――――――――――

 

 

Charaは自分が寝たきりであることを自分で責めてやりたいと思った。ベッドから落ちずして、もしくはAsrielの助け無くしてほとんど起き上がることができないからだ。けれどできなかった。Charaがまだ、ほんの幼子だった頃、父親が ― 生物学上の父親だ ― 同じ病に倒れるのを見たことがあったがゆえに。

 

TorielとAsgoreはたびたび、Charaのベッドの側まで見に来た。Charaが毎朝、起き上がるのにかかる時間が長くなっていくと、日に日に彼らの瞳は希望から恐れへと変わっていった。Charaの母親の頬を最初の涙が伝った時には、腕を伸ばしてそれを拭ってやり、弱々しくこう口にした「僕は、大丈夫」

 

TorielはCharaに微笑んで、その手を自身の手で包みこんだ。「おチビさん、わかってるわ」と口を開く。彼女は手をぎゅっと握り締め、Charaは優しくそれに応えた。「そしてすぐにでも起き上がって、また歩けるようにもなるわ。お父様の庭弄りも一緒にするの。彼にはアシスタントが必要なのよ」

 

「そうかな?」しゃがれ声でCharaは答え、弱い笑みをこぼす。それは咳へと変わり、しばらく続いた。それからTorielは、Charaが口元を押さえられるようにと助け起こす。

 

Charaが手をどけた時には、その手のひらは赤く染まっていた。

 

その夜、Charaは、キッチンからTorielの泣き声が響いてくるのを聞いた。Asgoreが彼女を元気付けようとしている。

 

ごめんなさい、Charaはそう言おうとした。もちろん、それは誰にも届かなかった。

 

 

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Asrielは、両手でCharaの手を握っている。Charaの肌は触れるには熱く、地下の薬は何の効果も無い、けれどAsrielは、できるだけ自分のきょうだいが快適に過ごせるよう努力した。彼らは数日おきに、部屋を冷やすためにSnowdinから誰かを連れて来さえした。Charaはよく眠れているようだったが、ときには…まるでCharaは死んでいるようにも見えた。

 

「ママ…パパ?」Charaは尋ね、赤い瞳を疲れたように瞬かせて彼に目を向けた。

 

「ママはGaster博士のところへ行ったよ。彼に何かできることは無いかと聞きにいったんだ」Asrielは答える「パパは皆と話してる。とっても心配してくれてるんだ」

 

「ごめん」Charaは口ごもった。

 

「そんなこと言わないでよ」

 

「騒ぐことないのに ― 僕なんかのことでこんなに大騒ぎするなんて」Charaは貶す。しゃがれた声は咳へと変わった。ありがたいことに、それは一度だけで済んだ。Asrielは安堵の息を吐く。

 

「もう、黙ってなよ、Chara」Asrielは手を伸ばしてCharaの前髪を押し上げ、瞳を覗かせる。Charaの髪は少々長く伸びた。額は燃えるように熱い。王子は無理やり笑みを作った「皆にはきみの事で騒ぐ権利があるよ」

 

Charaの笑い声はぜいぜいと苦しそうだ。AsrielはCharaの手を握り締める。Charaはそれを握り返した。

 

「パパ…パパは…」Charaは息を吐くのにそこで言葉を切る「パパはまだ庭にいる?」

 

Asrielはしばし固まった。彼はCharaの額から手をどけて、握っていたもう片方の手に重ねるとCharaの弱々しい手を覆う。ここ一月ばかり、Charaが病気によって床へ臥してからは庭には雑草が蔓延っている。王はそれに頓着していなかった。いつでも彼らの子供の事を気にかけているか、もしくは科学者たちに、自分たちがCharaの病気に対してできることは無いかと尋ねていた。けれどモンスターの科学はそこまで発達していない。地上から切り離されてしまっているが故に、限られた資源の中では難しい。モンスターたちの食べ物はソウルを癒す。肉体的な病は別だ。

 

おそらくそれが、Charaがここまで持ちこたえられている所以だろう。なぜなら、Charaのソウルは強い。

 

「うん」Asrielは嘘を吐いた。「彼は庭にいるよ」

 

「よかった」Charaは言う。「君は ― 君は知ってるかな…」Charaは再び呼吸を整えようとした。Asrielの顔が苦痛に歪む、けれど呼吸を整えるのに目を閉じてしまっていたから、Charaは彼の表情を見ることができなかった。「君は…死者が唯一得ることができるのは花だけなんだって、知ってる?」

 

Asrielはその言葉に固まった。

 

「死者は…息をしない」Charaは笑う。「時々、彼らは忘れられさえするんだ。彼らは ― 彼らはもう自分たちが愛した人たちと言葉を交わすこともできない。それに…彼らは愛したものたちに何もしてあげる事ができないんだ。ただ一つだけ、彼らが手にしていられるのは…自分たちを飲み込んだ、その地面だけなんだよ」そこでまた息を吐く「それと、捧げられた花だけだ」

 

「どうしてこんなことを言うの?」Asrielがきょうだいを握る手に力を込める。

 

「パパに ― よく花の世話をするように伝えるんだ、いいね?」

 

「Chara、それはきみが自分で伝えればいいじゃないか」Asrielは言う「身体が良くなったらさ。彼と一緒に花の世話をするんだ」

 

「Asriel、嘘はやめて」Charaは弱々しく、くすくすと笑った「君らしくもない」

 

王子は反論しようと口を開く。けれど、Charaはそれにできるだけ首を振り、動いた事による痛みにびくりと体を震わせた。

 

「僕は…キンポウゲの花がすきなんだ」Charaは口を開く「パパがいつも植えている金色の花だよ。かわいらしくて…」

 

「きみが落ちてきた時にめちゃめちゃにしちゃったやつ?」Asrielは尋ねた。

 

Charaは激しく笑って、それは別の咳へと変わる。Asrielはそれにはすぐに責任を感じ、Charaの箪笥からハンカチを掴んだ。布地が再び赤く染まる。両者共に、布についた不吉な痕をじっと見つめた。

 

「Asriel、これで僕らは二人とも、僕はもう長くないってわかったね」

 

「そんなこと言うなよ」

 

「Asriel」Charaは微笑む「お願いだから」

 

王子は、それに応えなかった。

 

 

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Charaは引き続き、きょうだいが話すのを聞いていた。ママとパパは度々医者と共に家へ来たけれど、その誰もが、何もする事ができなかった。最悪なことに、地上でさえ、どんな人間の医者もCharaの血の繋がった父親を救う事はできなかった。おそらくそれは、一種の不治の病だったのだろう。

 

Asrielは、今ではもっともCharaの側にいる人物だった。Torielは涙が溢れるのをほんの数分でも堪える事ができない。Charaはできるだけ彼らを元気付けようとしたけれど、腕はもうほとんど動かすことができなかった。Asgoreは妻を部屋から連れ出すと、彼女の後頭部を優しく叩いて慰める。けれどもCharaには、彼の悲しげな声音も聞こえてしまった。

 

時々Asrielの声も震えたけれど、彼はずっとそこにいた。毎日。Charaの強い、強いきょうだいだ。

 

「キンポウゲだよ、いいね、Asriel?」Charaは彼に再びそう言い含める。

 

Asrielは口をつぐみ、顔をしかめた。彼はいつでも、Charaがその話題を持ち出すことを嫌う。

 

「やめろよ」

 

「Asriel」Charaは言う「お願いだから」

 

モンスターの王子はため息を吐いて、俯いた。彼はきょうだいの手を握り締める。Charaは握り返さなかった。

 

「きみはぼくにどうして欲しいの?」Asrielの囁きだけが響く。小さく、割れている。

 

「僕のために、笑って」Charaは口を開く「幸せでいて」

 

「きみは、ぼくがいなくてもこんな風に幸せになれるの?」Asrielは目線を上げてCharaと目を合わせた。

 

Charaは手を握り返そうとした。ほんとうにそうしたのだ。けれど、できなかった。

 

 

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「君は、パパとママが昔僕らに話してくれたことを覚えてる?」

 

それはCharaが病気になってしまってからAsrielが聞いた、はっきりとした声だった。

 

「どの話?」

 

「もしもモンスターが…人間のソウルを手に入れることができれば…」Charaの声は次第に消え入ってしまう。

 

Asrielは、激しく首を振った。

 

「ダメだ。ダメだよ、きみは死んだりなんかしない ― 」

 

「Asriel、君は…僕がなんでEbottに降りてきたのか知ってる?」Charaは尋ねる。

 

Asrielはそれに答えるのにしばしの時を要した。地上のことについて話をするとき、Charaはいつでも悲しそうに見え、何か聞いて欲しそうなそぶりを見せていたけれど、決して強要はしてこなかった。彼は聞きたくなかった。けれど喉は張り付いて何も言えず、いずれにせよCharaは話し始めた。

 

「僕がここへ来たのは…死ぬためなんだ」そうCharaは認めた「けど、キンポウゲの花が僕を受け止めた」

 

Charaの手を握るAsrielの手が強張った。

 

「それから ― それから君に出会って、君は…君はとてもいいやつだった。今までそんなこと思ったことなんてなかったんだ…誰もそういう風に思えるやつはいなかった」Charaは言う「僕に対しては、そうじゃなかったんだ」

 

「きみに何があったの?」Asrielは囁いた。

 

「僕は幸せだった…ここで。ちょっとの間だったけど」Charaはそこで間を置く「それから、僕はまたダメにしちゃったんだ。僕はいつだって物事をめちゃくちゃにしちゃう」

 

「きみが病気になったのは、きみのせいなんかじゃないよ」Asrielは言う。

 

Charaはそれに笑った「僕は時々、そうだったらいいなって思ってた。それで…それならたぶん僕は、代わりに病気にならない道を選ぶ事ができたんだ」声が鼻について、Charaは重く飲み込む「僕は皆を悲しませたくない。けど、それが唯一、僕が得意なことなんだ」

 

「そんなことない」

 

「そうだよ」Charaは言う。

 

「違う」

 

人間は頭を振った。

 

「僕が死んだら…」

 

「きみは死んだりしない」

 

「Asriel、嘘はやめて」Charaは彼に微笑む。Charaは瞬いて、涙が目尻を伝って枕を濡らした。「僕の…ソウルを使ってくれる?お願いだから、たぶん君なら ― 君の優しさならできるよ…たぶん、君なら人間たちにどんなにモンスターが違うんだって伝えられる。たぶん…バリアを破る道も、見つけられる」

 

「Chara、きみは死んだりしない」Asrielは前にもたれて、Charaの頬へ手を添えた。「約束する」

 

Charaは瞬いた。それからCharaはその手にすがり顔を埋め、泣いた。

 

「きょうだい、お願いだよ」Charaはむせび泣く「守れない約束はしないで」

 

 

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Charaは日に日に、目覚めるまで時間がかかるようになっていった。AsrielはCharaの部屋を毎日訪れて、手を握り、未だCharaが生きて戦い続けているというしるしである、胸が上下する様を注意深く確認すると、問題が無いか熱を測った。

 

今日、Charaは目覚めるのに時間がかかった。

 

Asrielは強くCharaの手を握る。Charaの肌は冷たく、握り返しては来なかった。

 

 

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王と女王は、壊れた城の中にあるCharaの部屋に戻ってきた。ドアは完全に無くなってしまっていて、天井はへこみ、そして壁は半分崩壊していた。彼らの子供が二人とも見当たらない。

 

Asgoreは、Torielが城中で彼らの行方を探している間に警告を発した。

 

その一方で、彼らが知らない地上では、Asriel Dreemurrが赤いソウルをその手に掴み、地球を歩いていた。自身の心に怒りと、切なさを抱えて。

 

 

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ソウルを得て ― もしくは、とにかく別のソウルによって ― 完全にお互いが鎖で繋がれるまでは、まるで自分自身がそのことに酔いしれてしまったようだった。二つの異なる存在が、一つに溶け込んでいる。両者が完璧な、彼ら自身の器の制御下にあって、どちらも支配的ではない。それは共存で。共生だった。

 

けれどこれは、調和の取れた共存ではない。

 

CharaはもはやCharaではなく、AsrielももはやAsrielではない。且つ、彼らは覚えていて、知っていて、わかっていた。彼らは他の者達が何をしたのかを性格に把握していた。そしてChara、あいつらはきみに一体何をしたんだ?

 

Asrielは記憶を深く探った。虐待と、苦痛と、悲鳴と、母親と、お願いやめて、そしてCharaの父親が生きていた頃の束の間の幸せ、けれど残りは痛みと、その更なる痛み、そして嫌な視線にしくしくと涙を零す記憶だけだった。

 

ソウルが、Asriel自身のものと溶け合う瞬間、彼は痛みと、悲しみと、激しい怒りを感じた。なぜこんなにも彼らはきょうだいをこうして虐待したのだろうか?

 

いつもこうだったわけじゃないよ、Charaは囁いた。誰しも、自分たちが愛した者たちを失うと変わってしまうんだ、Asriel…それが…

 

「きみはぼくに、間近に迫ったきみの死を認めてほしいんだ」Asrielは口を開く。踏み出す足を止めた。前方には村があり、そこには人々が ― 子供でさえ ― すでに彼を目にしていた。Charaの記憶によれば、ここはCharaが育った村だということは疑いようも無い。なんと簡単なことか…

 

Asriel、Charaは再び囁いて、そしてどういうわけか、王子は肩の上にCharaの手を感じた。自分自身に嘘を吐くのはやめるんだ。

 

Asrielは深く息を吐いた。

 

そして肩を落とす。

 

彼は怒っているのかもしれない。彼は今、ひどく怒っているのかもしれない。けれど、人々を傷つけるのは…彼はため息を吐く。彼が向きを変え、歩き始めるのに対してCharaが内から、ありがとう、と囁いた。彼らの後ろでは、すでに子供たちが悲鳴を上げていて、「モンスターだ!」と叫んでいる。Asrielは彼らに追い詰められるのは時間の問題だということは分かっていた。

 

それでもやはり。暴力は更なる暴力を生む。そしてそれは、二人の望むところではない。

 

家へ?Charaは尋ねる。

 

Asrielは何かが彼の背中を刺すのを感じたけれど、とにかく歩き続けた。もう動き始めてしまったのだ。

 

「家へ」

 

 

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なぜ世界は度々僕たちを裏切るのだろうか?Charaは人間を目にしながら思った ― Frisk、それが自分の名前だと、その人間は思い出す ― 手探りで地下世界を巡る。奇妙な事に、Asrielは花になってしまった、そして彼はそう変わらなかった。優しいままだ。未だ試そうとしている。それなのに、Charaは彼が、落ちてきた他の全ての子供たちを救おうとして結局諦めてしまうまで、リセットにリセットを重ねるのを見ていた。

 

まるで鏡を見るようにFriskを見ている。選択をするFriskを見ているのは、まるで自分の人生が終焉を迎えるのを目の前で見ているようだった。

 

決意を抱いて、Charaは座り込む人間にもう一度囁く。Friskは今やAsgoreと対峙していた。Chara自身が死んだ事に罪を感じてしまう程に、王はとても変わってしまったけれど、Charaはできる限りの事をした。まずFriskがそうだ。CharaはFriskがRuinsで目覚めた時から支えようと努め、なぜCharaが数年前に落ちてきた穴からFriskが行動を開始するのかと困惑し、またCharaのきょうだいが花へと姿を変えてしまっているのを見つけた。

 

決して避けられない死を受け入れるというFriskの選択でさえ、Charaに自らを彷彿とさせた。そのせいで…Asrielの死を招いたとある馬鹿馬鹿しい選択と同じ様に。けれどその子供は自らの選択によって決意した。けれど実際には確かなものなど何もなかった。どれだけうまく皆それぞれが、運命をその手で掴み取り、形作れる己のカードを選び取る事ができるのかどうかは自分次第だ。

 

本当にこれでいいの?Chara初めてそう尋ねる、にもかかわらずCharaにはFriskに声が聞こえているのかどうか確証はなかった。SansとFloweyが王と戦っている間、Friskは自らを支えるために床に手をついて震えていた。Friskが傾いで、それにCharaは素早く腕を回してFriskを支える。驚いた事に、人間は地面に倒れなかった。

 

「うん」Friskは囁く。FriskがCharaの声が聞こえることに安堵した。

 

それじゃあ、君は本当に全員救う事を望んでるんだ?

 

「うん」Friskは繰り返す「今ボクができる唯一の事だから」Friskは弱々しく笑った「ボクは、もうすぐ死ぬから」

 

Charaは理解した。そしておそらくはこれが、Friskが最初の場所で目覚めた理由なのだろう。いずれにせよ、この子供を支え、証言をするに、Frisk Dreemurrは ― なぜなら全ての権利において、FriskはDreemurrだったからだ ― 誰にも感謝などされることなく、快くその命を差し出した無欲な英雄だったと言える。

 

君は誰かを彷彿とさせるって?Charaは自分自身を思う。Charaは人間を更に強く抱きしめて、自らの真言を繰り返す。

 

決意を抱いて。

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