【そうだ、ジョウト行こう】6
「えっ、じゃあマツバさんは本当はどちらかというと宿屋のオーナーじゃなくて修行僧、というかお坊さんなんですか?」
そう問うカズマサにマツバは頷いて、家が寺なんだよ、と笑った。
マツバの案内で一同は宿泊先の旅館のロビーでテーブルを囲んで茶菓子をつついていた。一緒に出された抹茶が大変美味である。
「カミツレさんなんかもそうだと思うけどジムリーダーと兼業してる人は多いよ、リアルな話、やっぱり安定した収入はないとね」
てっきりジムリーダーというのはそちらをメインにやっていると思っていた面々には初耳だった。
「はぁー、ジムリーダーいうんもなかなか大変なんやなぁ」
「うん、まぁ、例えばカントーにいるグリーンというジムリーダーはポケモンの研究をしている学者だし、アンズなんて…忍者、くノ一だ」
ふいにきりりと顔を引き締めたマツバ。
それを聞いてキャメロンとジャッキーががたたっと立ち上がる。
「ニンジャ!本物のくノ一がイルノデスカ!」
「あの手裏剣とか投げたり壁抜けしたり水の上歩けるスーパーな人物ですよね!」
So cool!とキャメロンとジャッキーが色めき立っているが、忍者ってそもそも普通は人前に出てこないし壁を抜けるなんてできない。とカントー出身のシンゲ ンとカズマサは内心つっこんだ。だが普段割と静かな二人のハイテンション振りがおもしろかったので口には出さず思うだけに留めた。
両手で茶器を持ち、ゆっくりと出された抹茶に口をつける。うん、おいしい。
「ま。なんにせよジムリーダーいうんは大変やな。あれやろ、わしらみたいに挑戦者をただ迎え撃つんやなくてバトルを通していろいろと教えていかなあかんねやろ?」
クラウドが大変やなぁ、とこぼす。
「そうだね、毎回僕自身も勉強させられることが多いよ。何を伝えていきたいかっていうのも大事だけど、相手の力量に合わせて加減するのもなかなかにむつかしい」
「じゃあボスたちで言うノーマルトレインのバトルってところか」
トトメスが何やら会得したように頷く。
「あー、だからカミツレ、時々スーパートレインに乗りに来るのかな」
「なるほど、納得いたしました」
本気のバトルをできる場は必要だよね、と二人は声を揃える。
実のところ、バトルサブウェイへと足を運んで来るリーグ関係者は少なくない。顔は知らずとも、プロだと思われる戦い方をするトレーナーはよく訪れるのだ。
通常ならばノーマルを勝ち抜かないことにはスーパーの乗車権限を得ることはできないが、早々にお忍びだと知れた場合には逆にこちらから特別にスーパーへの乗車を勧めることもある。
最初からリーグ関係者に特殊パスを渡してしまえばよいのにと常々考えているノボリとクダリだが、プロという職業上民間施設に挑戦することは表向きには認められておらず、折り合いをつけるのはなかなかに難しい。
そのため、実はバトル系の民間企業に知り合いのいるジムリーダーは多い。あくまで個人的に、知り合いの伝手でそういった施設へと足を運ぶのである。
マツバはにこりと微笑むと、ノボリとクダリにこう切り出した。
「先程の二人のバトル、すごく素敵だったよ。カミツレさんが二人のバトルを褒めてた理由、よくわかった。ほんとに楽しそうにバトルをするんだね。よかったら僕ともバトルをしてくれないだろうか」
その言葉にノボリとクダリは一瞬顔を見合わせたあと、満面の笑みで答えた。
『よろこんで!』
そしてふと我に返る。さすがに、二対一でバトルするのは少々難しい。
「マツバ様は私達のどちらとのバトルをご希望ですか」
「まさか一人で二人相手に!とか言わないよね?」
「まさか!さすがにそれはないよ!けれど君たち二人とは戦ってみたい。友人にすごくバトル好きの子がいるんだけれど、その子を呼んでもいいだろうか」
どうかな、とマツバはおずおずと切り出す。
対してノボリとクダリの二人はそれぞれ間反対の表情で、しかしそれは嬉しそうに同じにマツバの手をとった。
「もちろん!」
では明日の正午に、と約束を取り付けて、マツバは帰っていった。彼の住まいもジムも共にここ、エンジュにあるらしい。
バトルする場所としては最適だということで、彼のジムでバトルを行うことになった。
ジムでのバトルといえばそれぞれのリーダーたちのタイプを模したバトルフィールドが特徴的だ。どんなものかと期待は膨らむ。
クラウド自身、ジョウト出身ではあるがこちらでのジム戦はしたことがなかった為どんなものかはわからない。ジムの内装や使うポケモンのタイプなど想像に話がはずみ、更にそんなやりとりに鉄道員たちが色めき立つ。
「電車ん外でボスたちのバトルがまたも拝めるとは…貴重な体験や」
そうしみじみともらすクラウドの横でクダリがくすりと笑った。
「そうかな?」
そんなクダリの様子にラムセスが呆れたようにこぼす。
「そうだよ、そもそもボスたちは私用でサブウェイを出ること自体が稀じゃないのさ」
「まぁ、確かに。それもあるかも知れません」
「というか、確かにバトルは好きだけどわざわざ外にいかなくてもバトルすること自体が仕事だしね。楽しいし…」
「逆に外へ出てバトルする必要性もそんなに無いですよね」
そうそう、と頷き合う二人にカズマサは苦笑いだ。
「そりゃあ確かにそうですけど!厳選以外でないんですか?こう、遊びに出かけたりとか」
二人はしばらくうんうんと唸ったあと、ぽんと手を打った。
「あ、そういえば定期的にサンヨウレストランの方にはケーキ食べに行きますよ」
「あそこの甘味は絶品だよねー」
「ソウイエバボスタチハアソコノケーキヨクオ土産ニ買ッテキテクレマスヨネ」
「あー!あれか!確かにすごく美味しかったのさ!な、トトメス!」
「ただ毎回僕らだけ、ケーキを食べるのにボスたちにバトルを強いられるのはなぜなんですか」
若干ジト目で視線を送ってくるトトメスに、クダリは悪びれもせずに笑う。
「あはは!ごめんごめん!」
「つい…ですね…」
そこへすかさずカズマサがフォローに入る。
「ほ、ほら!いつもトトメスさんとラムセスさんが戻ってくるタイミングが大体ボスたちが一息ついたあとなんでバトルしたくなっちゃうみたいなんですよ!」
腹ごなし的な!とのたまえばクラウドがつっこむ。
「どんだけワーカホリックなん!」
「イヤイヤ、ボスノバトル好キハ今ニ始マッタコトジャナイデショ」
キャメロンの言葉に場の全員が声を上げて笑った。
そうして、ジャッキーがふと気づいたように提案する。
「というかボスも普通にバトルだったら息抜きにライモンの遊園地とか利用したらどうですか?あそこならフリーバトル用のバトルフィールドありますし、カミ ツレさんなんかもオフだったら付き合ってくださるんじゃないですか?この旅行終わって帰ってからでもまだ二日くらい余裕ありますし、せっかくなので利用し てみたらいかがですか」
「確かにそれも悪くはないですね。しかし昔はよくカミツレとそういったバトルもしてたんですが、最近はジムがオフの日はモデルの仕事を入れてますからそれもなかなか難しいかもしれません」
「まぁでも遊園地のフィールド使うのはいいかも!知らない人と気軽にバトルできるし、振り終わった未進化の子とか連れて行こうかな」
旅行終わったら行こうか、と気軽にバトルの予定を立てるあたり、二人が廃人たる所以なのかもしれない。
早くも次の予定に心躍らせながら、ふとロビーの時計に目をやれば、短針が0時を回ったところ。ノボリはさて、と立ち上がると手を打って皆を急かした。
「というか皆さん、0時を回ってしまいました。明日もあることですし今日はもう休みましょう」
その言葉に今気付いた、と面々が目を瞬かせる。
「モウソンナ時間デスカ、早イデスネ」
「んー。あっという間だったのさ」
「明日が楽しみですね…!」
長時間座っていたこりをほぐす様に伸びをしながら席を立つ。そうして部屋まで戻ると、いつの間にやら敷かれていた布団にそれぞれ潜り込んだ。
「こういうのって修学旅行みたいですよね、わくわくします」
そうこぼすカズマサに、ひとたび会話が始まると寝るタイミングを逃すことを予期していたクラウドがぴしゃりと釘を刺す。
「カズマサ、余計なこと言っとらんと早よ寝とき」
「はいはい、すみませんねー、おやすみなさい!」
応えるように口々におやすみ、とつぶやいて、それきり部屋は静かになった。
しばらくして、こっそりと忍ぶように襖を開け、部屋を出て行く影が一つ。ノボリはちらりとそれを目で追った。
「わぁー!空が綺麗だなぁ!」
ライモンの空からはこんな景色は見れないや!と旅館のロビー脇に設けられた庭からクダリは空を見上げて感嘆する。カナワまで行けば見れないこともないが、やはり自然の多い地域の空は澄んでいて、そのまま吸い込まれてしまいそうだった。
ロビーの大きな窓から伸びる縁側に腰掛けて、足にひっさげた下駄で下に敷き詰められた砂利をつついた。先程のバトルについて考えていた。普段あまり出会 わないポケモンとのバトル、また戦法等普段使わない手を試せるというのはなかなかに楽しい。また明日もあのマツバというトレーナーとバトルができるという のも非常に楽しみだった。普段は仕事とはいえ車内でのバトルが多いため、久々の地上でのバトルというのも理由のひとつだ。
本当はあのまま皆と寝るべきだったのだろうがどうにも興奮が冷めやらず、目が冴えたままだったので散歩でもしようと思い至ったのだった。しかし秋口の夜 風は少々肌寒く、浴衣一枚で出てきてしまったクダリは失敗したな、とため息一つついて腕をすり合わせる。くしゅん、と小さくくしゃみまで漏れてしまった。
「そんな恰好では風邪をひきますよ」
声に反応して振り返るより早く、肩に何かがかけられて、確認すれば渡してくれたノボリと同じく浴衣とお揃いの柄をした半纏だった。
「えへへ、ありがと」
笑みを浮かべて嬉しそうに半纏に袖を通せば、ノボリが呆れたため息をこぼす。
「こんな時期に浴衣一枚で外へ出るとは何事ですか。寒いにも程があります。ほら、これも羽織りなさい」
そう言って隣に腰掛けつつ更にノボリが差し出してきたのはクダリのマフラーとコートだった。それをお礼を言いつつ受け取りながら、クダリはきょとりとノボリを見つめ返す。
「ノボリのは?」
「…あ」
今気付いた、と目を見開いたノボリにクダリは笑った。
「ノボリのドジ!」
ノボリは昔からちょっと抜けたところがあった。相手の事は細かな事でもすぐに気の付く癖に、自分の事となるととんとだめなのだ。
こうすれば寒くない!とクダリは楽しそうにノボリにくっつくと、自分のコートを二人の肩が納まるようにひっかけ、マフラーを二人の首にかけた。少し長めのマフラーは、二人でも十分足りる長さだった。
ノボリの頬にすり寄りながら、半分マフラーに顔をうずめてクダリは嬉しそうに笑む。
「あったかーい!」
そんなクダリにつられるように、ノボリもくすりと笑う。
「クダリに風邪をひかせないために来たのに、私が暖められてしまいましたね」
「ノボリは変な所で自分に無頓着すぎ」
そうでしょうか、と首を傾げるノボリに、クダリは大きく頷く。
「では、私に自分の事を気にかける余裕ができるよう、あなたも自分の事はしっかりできるようにしてくださいまし」
冗談めかして言えば、クダリは不満そうに頬を膨らませた。
「えー、むりむり。ぼくノボリがいないと全然だめ。ノボリが自分の事忘れてたらぼくがどうにかしてあげるから今のままでいいです」
「なんですかそれ。まあかまいませんけど」
前言撤回。と早くも発言を覆すクダリにノボリは笑った。
「あと眠れないのは分かりますけど、あまり夜更かししてると明日つらいですよ」
「うーん、そうなんだけどね。目が冴えちゃったし」
それに、とクダリは続ける。
「もうちょっとだけノボリとこうしてたい」
最近あまり二人でゆっくりできなかったから、とこぼすクダリに、ノボリは頭をクダリへとくっつけることで返した。そうしてクダリの右手を左手でつなぐ。そうでもしていないと、互いの体温が温かくてそのまま眠ってしまいそうだった。