【きみと約束】1
ティックタック、ティックタック、
時計が音を刻むように、歯車は音と共にクルクルと廻る。
ティックタック、ティックタック、
青年の姿を模した機械人形、クダリは床に座って自らが刻むその音に耳を傾けながら、目の前の椅子に静かに座る人形を見つめていた。
自分と同じ顔。陶器にも似た、つるりとした白い肌に銀色の癖のある髪。そして瞼に覆い隠された瞳の色はきっと灰色。
クダリはその瞳が開くのを今か今かと待ちわびていた。
「なんだ、またここに来ていたのか。」
がちゃりと音がして、湯気の立ち上るカップ片手にクダリの背後にある扉から入ってきたのは初老の男性。
クダリは彼に向かってにっこりと笑った。
「うん!そう!ねぇ博士、ノボリはいつ起きる?」
博士、と呼ばれた男性は同じ部屋にあるテーブルにカップをそっと置くと、自分も脇の椅子に腰を下ろした。そのまま顎に手を当ててむぅ、と首を捻る。
「ノボリの調整はもう終わっとる。ギアにも異常はないしいつ目が覚めてもおかしくない状態なんだが…」
「そうなの?」
「うむ。それにクダリ、プロトタイプのお前さんと違ってむしろノボリの方が若干性能的には優れてるはずだ。」
だから機能的には問題ない、そう言って博士はコーヒーをすすった。
「へぇ…」
クダリは下からノボリの顔を覗き込む。未だその瞳は固く閉じられたままだ。
クダリはふと、立ち上がるとノボリに近づいてその胸に耳を当てた。やはり動いていなかった。自分のギアはこんなにも世話しなく動いているというのに。
ちょっと悔しくなって、右手をそっとノボリの胸に乗せた。シャツ越しに感じる造られた肌の感触は、自分と同じもの。
と、急にクダリのコアが熱を発した。何かに呼応するように、いつもとは違うリズムでエネルギーを供給し始める。急激なコアの変化に耐えきれず、ギアが悲鳴を上げた。クダリは声にならない呻き声をもらし、胸の辺りを押さえて地面へと倒れた。
「クダリ…!」
博士はあわててクダリに駆け寄った。そっと抱き起こし、状態を確認する。
「コ…コアが…変。」
「コアが?」
苦しげに顔を歪めるクダリに博士は怪訝な顔をする。ギアの不調ならまだしも、コアがおかしいとはどういうことだと首を捻る。コアに使用した素材は博士が 山奥で発見した、半永久的にエネルギーを発する鉱石だ。その鉱石がひとりでに意思を持って動くとは思えない。博士はぐるぐると思考した。
つと、2人の脇に影が立つ。
「わたくしにやらせてくださいまし。」
突如、凛と響いたその声に、クダリと博士ははっとしてそちらを向いた。
「ノボリ……起きたの?」
「ええ、このとおり。」
ノボリは頷いて、クダリのそばに膝をつく。
「クダリ、先ほどの様に、わたくしの胸に手を当ててくださいまし。」
「?…うん。」
ノボリに言われるがまま、クダリは彼の胸に手を当てる。すると今度は、ノボリもクダリの胸に手を当てた。
ティックタック、ティックタック、
ばらばらだった時計の音が徐々にシンクロを始めた。それとともに、コアの熱もすっと引いていく。完全に同調すると、どちらともなく手を離した。
「…治った。」
「どうやら、クダリがわたくしに触れたことでお互いのコアが共鳴したようです。わたくしのコアが起動時に発したエネルギーの余波でクダリのコアが誤作動を起こしてしまったのでしょう。このようにコアを同調させれば不具合は改善されるのですが…申し訳ないです。」
そう言ってもともと下がり気味の口角をさらに下げて申し訳なさそうな顔をした。その様子にクダリはぶんぶんと首を振る。
「ぜんぜん…!そんなことない…!ぼく、ノボリが起きるの、ずっと待ってた!」
そう言って満面の笑みを作る。
「おはようノボリ!」
その笑顔が眩しくて、つられるようにわずかながら口角を上げてノボリは答えた。
「おはようございますクダリ。」
きみが、あなたが、そこにいる。創られた当初から自分たちに埋め込まれている情報メモリーが互いの存在に反応するように、二人のコアが呼応して小さくトクンと音を立てた。