【甘いものがお好き】後日談
「今日はすっごく楽しかったねぇ」
リビングの床に寝そべって、お土産に買ってきたゼリーを食べながらクダリは笑った。
あの後、トトメスとラムセスをバトルフィールドへと引きずっていき、ケーキを餌にバトルを繰り広げたわけだが、なかなかどうして、思っていた以上にそれ は楽しいものだった。最初は渋っていた二人だったが訓練用のフィールドに立つ頃には腹を括った。そして、モンスターボールを放る時に見せた瞳のらんとした 輝きはやはり根っこの部分は生粋のバトル好きだからだろう。その点、なんだかんだ言いつつもバトルサブウェイで働く者たちには共通しているものがある。
結果から言えば、そのバトルはノボリとクダリの勝利に終わった。しかしながらすんなり勝てた、というものでもない。思っていた以上にトトメスとラムセス 二人の腕が上がっていたのである。二人のコンビネーションは抜群で、うまい具合に錯乱と攻撃、サポートを切り替えながらノボリとクダリの隙を突かんと向 かってきたのだ。そんな相手にはやはりそれ相応に迎え撃つのがバトルでは礼儀というものだろう。そもそもトトメスとラムセス相手に手加減する気などさらさ らなかったが、クダリ流に言えば本気の本気。終わってみれば、バトルフィールドはひどいことになっていたが、ノボリはブラボー!と手を叩き、クダリは上達 したねぇ、すっごく楽しかった!と笑った。二人はいやいやと首を振り、ボス達のバトルビデオを見てよくよく研究していましたから、と答えた。そんな二人に クダリは、はなまる!と言ってばしりと二人の背を叩く。その調子で精進してくださいましね、とノボリも微笑んだ。
両足を交互にぱたぱたとさせてくつろぐクダリは、傍から見ても上機嫌だということがうかがえる。そんなクダリを眺めながらノボリは楽しかったですねぇ、 と頷いて、同じくゼリーを片手にソファーの方でゆったりとしていたが、ふと思いついたように立ち上がるとそのままクダリを枕にするようにして仰向けに寝っ 転がった。
「うぇっふ!ノボリ重い」
急な重みに弟が悲鳴を上げるもノボリは知らぬふり。クダリはしばらく抗議の声を上げていたがやがて諦めて静かになった。
「ノボリ寝ながら食べるとか行儀悪い」
「クダリだって一緒です」
「ぼくうつ伏せだもん」
「わけがわかりません!」
つっこみを入れつつ、ノボリはゼリーに入っていたオボンの果肉を頬張る。口の中に広がる味を楽しみながら、幸せを噛みしめていた。こうしてクダリと一緒 に過ごす一日が、ノボリの一番の気に入りなのだ。とくとく、と背中を通してクダリの鼓動が聞こえる。どんなに最高の音楽でも、ノボリにとってその音に勝る ものはない。
「ノボリ、すっごくあったかい」
空になったゼリーのカップを床の向こう側へ押しやりながら、クダリは嬉しそうに笑う。それを行儀悪いとたしなめつつも、ノボリは一緒に置いといて下さい、と自分のカップをクダリへと渡した。
「そうですか?」
「うん、すっごく安心する。ぼくノボリとくっついてるの好き」
わたくしもです、と答えれば、クダリがくすくすと笑って背中が揺れた。
「ね、またケーキ食べに行こうね…!」
「もちろん!あ、でも今度はまた自分たちで作るのもいいですねぇ、ちょっと試したいケーキあるんですが一緒に作りませんか?」
ノボリがそう問えばクダリはぱっと目を輝かせた。
「え、なにそれなにそれ!作りたい!」
「実は前々からこっそり模索していてですね…チェスの形したチョコレートケーキ作りたいんです。ポケモンの駒をホワイトチョコとビターチョコでいくつか型をとって作って、チェス盤をあしらったケーキの上に置いたりとか…」
想像しただけでも楽しそうである。ノボリの作る菓子類は見た目にこだわったものが多く、完成品を拝むのが毎回楽しみだ。作業工程に関してはノボリは少々 大雑把な所があるためクダリが調整をしつつ二人で作る。最後の仕上げは大体がノボリの役目。そうして完成した作品を食べる前に写真に収めるのだ。これまで に二人の作ってきたレシピと写真はきれいにアルバムに保存され、もうすぐ六冊目になる。付き合いの長いとあるモデル兼ジムリーダーには本でも出版すれば、 と言われるほどだ。
「今度また作ってギアステーションに差し入れしようか!」
「いいですね!毎回皆さんの反応見るの実は楽しみです」
「あ、でも」
「家で食べる用は別にして、でしょう?わかってますよ」
クダリの反応にノボリがくすりと笑う。クダリの背の上で仰向けから寝がえりを打つと、自分と同じ、けれどつむじが逆を向いた頭に手を伸ばした。
「ん、なーに?」
「いえ、なんとなく。そこに頭があったので」
「なんだそれ」
変なノボリ。そう呟くと、クダリはえいやっと身を起こした。いきなりの事に、何の反応もできなかったノボリは床に頭を打ち付けた。とてもいい音がした。 一応カーペットを敷いてはいたが、痛い事には変わりない。ノボリは悶絶し、涙目になりながら恨めしげにクダリを見た。と、視界に映ったのは自分に突っ込ん でくるつむじ。そのままもんどりうって二人して床に転がった。
「ノボリばっかりずるい」
腹のあたりから、少し不貞腐れたようなクダリのくぐもった声が聞こえた。そのままぎう、と抱きしめられる。
「ぼくだってぎゅってしたいのに。うつぶせじゃなんにもできない」
あれ結構腰にくるんだからね、と枕役のことをさす。実際のところ、口ではそう言いつつもまんざらでは無かったが。背中に感じるノボリ体温は心地よかった。ただ少し、ノボリの顔が見えない事を寂しいなと思ってしまっただけだ。
きっとお互いに、お互いがいないと駄目なのだ。いつの頃からか、いやひょっとしたら生まれた時からぼくらはきっと二人じゃないと駄目だった。だって相手 の体温を確認できるだけで、こんなにも安心する。自分でもとんだ甘えんぼだよなぁと思う。けれどそれはノボリにも言えることで、それどころか好んで甘やか してくれるものだからどうしようもない。
「しょうがないですねぇ」
ほら。顔が見えなくたって呆れたように笑う君の顔なんて簡単に脳裏に浮かぶ。
「そのかわり、次の休みはわたくしのお菓子作りに付き合ってくださいまし」
「もちろん!」
ぱっと顔を上げれば想像通りの顔をしていたノボリと目があった。
二人で一緒に食べるお菓子は、他の誰と食べるよりも甘くておいしいんだってぼくたちは知っている。