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【甘いものがお好き】

「ねえノボリ、久々に次の休みに行かない?」
 
 何の前触れもなく、職場で事務作業中にそう問いかけてきたのはクダリ。しかし実のところノボリも全く同じことを考えていたので
 
「いいですね、わたくしもそう思っていたところです」
 
 すんなりと、次にやってくる二人の休日の予定は決まった。
 
 
 
 
 
 よく晴れた日の午後、サンヨウシティにあるジム兼カフェは、甘味を求めてやってくる女性客で賑わっていた。ティータイムには絶好の時間帯だ。店内にはふ わりと香るハーブティーの香り。ケーキの並ぶショーケース。そこは女性にとって魅力的な空間だった。そのため、からんと扉に着いたベルの音と共に入ってき た長身の二人組へと女性客たちは物珍しげな視線を送った。男女のカップルならまだしも、男性の二人組とはめずらしい。そんな目立つ二人の姿を見つけると、 デント、ポッド、コーンの三人は顔をほころばせた。作業していた手を止めて、新しくやってきたお客の元へと早足で向かう。
 
「デントひさしぶり!また来ちゃった!」
 
「ポッド様とコーン様も、お久しぶりです」
 
 オフのためノボリとクダリの二人は私服だった。カジュアルながらビシっと着こなすあたり、ジムの三つ子である同性の三人から見てもサブウェイマスターの二人はかっこいい。
 
「ノボリさん、クダリさんいらっしゃい!」
 
「よくきたなー!待ってたぜ!」
 
「お久しぶりです、秋の新作できましたよ!」
 
 三者三様に二人を出迎える。入り口で立ったままでは他の客の目も引くので、デントは二人をいつもの奥の席へと案内した。
 
「今日もいつものですか?」
 
 予約席、と書かれた札を取り下げながら、デントは一応二人に訪ねた。
 
「うん!いつもの!」
 
「ええ、お願いします」
 
 間髪いれずに答えた二人にデントは笑って、ヤナップをあしらった砂時計を二人のテーブルにことりと置いた。緑色の砂が、さらさらと下へと落ち始める。
 
「ではご存じとは思いますが一応…こちらは90分の砂時計です。砂が全て落ちきりますとお時間となりますのでこちらの砂時計をレジまでお持ちください。それでは!どうぞごゆっくり」
 
 デントが一通りの案内を終えて下がった後、二人はさて、と立ち上がった。
 待ちに待ったお楽しみの時間である。
 
 
 
 ここ、三つ子の営むサンヨウのレストランではお昼時になると、普通のランチのセットとは別にケーキバイキングを行っている。90分の制限時間の中でケーキが食べ放題というコースだ。多種多様なケーキを好きなだけ食べられるということから女性客からの反響も大きい。
 ノボリとクダリの二人はそんなサンヨウレストランの常連だった。普段から、二人の休みが重なると高確率でサンヨウへと出かけた。特にケーキが気に入りで、時間のあるときにはこうしてケーキバイキング目当てで来店する。
 よく意外だと言われることが多いが、実は二人とも甘いものが大すきなのである。クダリの方はその幼さを感じさせる言動ゆえ好みを主張しても大して驚かれ ることは無いが、いつだったか仕事の合間の休憩時間にノボリとクダリが二人でケーキやら菓子やらを持ち込んでお茶をしていた時には、ノボリの方は通りす がった鉄道員に大層驚かれた。
 ノボリとクダリの二人は外見や立ち振る舞いから対照的な印象を持たれることが多いのだが、実を言うと好みだとか趣味、根本的なものの考え方といった所は非常に似ているのだ。
 二人は各々プレートを手に取るとずらりと並ぶケーキの前でいつものやりとりを交わす。
 
「じゃあ新作とか食べたことないやつ中心に、種類はあんまりかぶらないように!名付けて“できるだけたくさん食べよう大作戦!”」
 
作戦名を声高に主張しながらこぶしを突き上げるクダリに、
 
「いやいやクダリ、それ作戦も何もそのままですよ…。要するに、食べるときはシェア、ですよね。いつもどおりに」
 
 ノボリは首を振りつつも「ではかいさーん!」というクダリの声に散開した。
 
それなりに広いレストラン内の中央に設置されたバイキングスペースには円を描くようにしてテーブルが並べられ、切り分けられたケーキやスモールサイズの小 さなケーキがところ狭しと敷き詰められている。色合いが鮮やかなのも相まって、その様はまるで小さな花畑の様だ。それくらい、サンヨウレストランのケーキ はひとつひとつが手の込んだものだった。三つ子やその他のパティシエたちの力量がうかがえる。
どれにしよう、なんてテーブルに並べられたプレートを見つめながらクダリは思う。どうせシェアするのだからノボリも好きなものを選びたい。
ひとつひとつプレートの前で立ち止まり、ケーキとにらめっこしながらクダリはうんうんと唸った。
口の中に入れた途端にサクっと風味が広がるチーゴのミルフィーユはノボリと二人でお気に入りだし、オボンのタルトもはずせない。モモンのゼリーもおいしそうだ。けれど新商品らしい最近見たことのなかったカイスのプチパフェも気になってしまう。
クダリはそこまで考えたところで好きなものはノボリとだいたいおそろいで、そう外したことが無いのを思い出してどれなら二人で楽しく食べられるか、なんて のを考えるのはやめにした。自分の好きなものを選んでしまえばよいのだ。味の好みが似ているせいで、今までそれを理由とした喧嘩が無かったとは言わない が、逆にこういったシチュエーションではなんだか得をした気分になる。
クダリはなんだかよくわからない即興の鼻歌を歌いながら上機嫌で手にしていたプレートにケーキを盛り始めた。
 
 
 
 
数分後、もとのテーブルに戻ってきた二人は互いのプレートを見て顔をほころばせた。盛れるだけ盛りましたと言わんばかりの敷き詰め具合だ。それでいておか わりする気満々なのだから店にとっては大打撃もいいところである。唯一の救いは、二人が揃って訪れることのできる機会が滅多に無いということだろうか。
 
「何それ、ノボリのとってきたこれ、すっごいきれい。なんのケーキ?」
 
「ふふ、なんでしょうね?パリブレストと書いてありましたが何やらフルーツも入っていてアレンジされているようです。このクリームの巻き具合、素敵ですね。舌だけでなく目でも楽しめる菓子は私すきです」
 
「知ってる。ノボリ自分で作るときも見た目にはやたらこだわるもんね」
 
「そのほうが食欲もそそられるではありませんか」
 
 そう答えるノボリはひどく楽しそうだった。
テーブルに置いてあったバスケットの中からフォークを手に取るとクダリに手渡す。
 
「さて。時間も過ぎてしまいますし、始めましょうか!」
 
「うん!いただきまーす!」
 
 食べ始めてからの時間はあっという間だった。
 
「ね、ノボリノボリ。今食べてるのそれ何?一口ちょうだい」
 
「クダリ、それ私にも一口ください」
 
 
 
 初めにクダリが“できるだけたくさん食べよう大作戦!”と宣言した通り、たっぷりとプレートに盛られていたケーキは、雑談を交えながらあっという間に二 人の胃袋に消えていった。少しだけ余った時間を利用して食後のコーヒーを飲みながら二人はほっと一息ついて、最後に残しておいたメレンゲをさくりとかじっ た。
 
「せっかくだし、お土産買って帰ろっか」
 
「今もう充分に食べたじゃないですか」
 
「違うよ!クラウドたちに!ほら、昨日カズマサたちと色々話してたじゃない」
 
 そうなのだ。休日にサブウェイマスターの二人がケーキバイキングをしに行くと聞いて、意外!と声を上げたカズマサを筆頭に、その話題は大いに盛り上がった。
 
 
 
 
 
「俺、ボスたちだったらてっきり休日はポケモンの育成とか鉄道関連にのめり込んでるものだと思ってました」
 
 鉄道員やバトルサブウェイで働くスタッフ専用の休憩室で、ノボリとクダリがクラウドやシンゲン、ジャッキーたちと休憩を取っていた時の事だ。シフト上午後からの出勤で、少し遅めの昼食をとりに来たカズマサが合流する形になった。
 向かい合うように座っていたクダリとノボリのもとにやってくると、ノボリの隣へと座った。そこで二人の、次の日が休みだという話から、何をして過ごすのか、という内容に発展したわけである。
 
「もちろんカズマサが今言ったことも行いますが、優先順位がありますからね」
 
「そうそう!なかなか行けないからね!時間とか期間が合うときはケーキ優先!」
 
 何を迷うことがあろうか、ときっぱり断言しきった二人にカズマサはいやいや、と首を振った。
 
「いえ、そういうことでは無くて、そもそもお二人が甘い物好き。ということが意外だなぁ、と」
 
 そんなに意外だったかと首をひねるノボリとクダリに、クラウドは苦笑した。
 
「そうかもしれんな。二人ともちょっとお堅そうなイメージあるしなぁ、黒のボスは特に」
 
「確カニ。白ノボスハマダ想像ガツキマスケド。僕モ最初黒ノボスガ白ノボストホールノケーキヲツツイテルノヲ見タ時ハビックリシマシタ」
 
「へぇ…、ホールもつついちゃうんですか」
 
「あれはいいよー!疲れ一気にとれちゃう!でもノボリはカズマサみたいにぼく以上に、甘いもの好きって見られる事無いからバレンタインの時とかもらうのもお菓子より物の方が多いんだよねー」
 
「その点私はクダリが羨ましいですよ、どうせいただくのなら私も甘味が欲しいです」
 
「だからほら、してるじゃない半分こ!」
 
 はぁ、とため息をついたノボリをクダリが必死に励ます。その横でぎり、と歯ぎしりをしたカズマサには誰も気付かなかった。否、実は聞いてしまったクラウドも、聞かなかったふりをした。バレンタインデーに何か貰えるだけでも贅沢、なんて口が裂けても上司には言えない。
 
「まぁ、なかなかゆっくりと休む時間がとれない分、糖分でカバーしている感じですね」
 
「疲れた時には糖分ってよく言いますもんね。でも、ボスがその貴重な休みを使ってまで食べに行くケーキの味には僕ちょっと興味あります」
 
 ジャッキーのその言葉には他の面々も大きく頷いた。
 
「それは確かに興味あるなー。ボス、そんなにうまいんか」
 
「少なくともそこいらの喫茶店のケーキよりは格段においしいですよ」
 
「また食べたい!って思えちゃうくらいにはねー」
 
「そうですね、サンヨウへ行く機会があるのなら是非に!ってところですね」
 
 
 
 ノボリとクダリのそんな言葉を聞いて、羨ましそうにため息をこぼした鉄道員の面々の様子は未だ記憶に新しい。
 
「そうでした。先日そんな話をしていましたね。せっかくですし買って帰りましょう」
 
クダリの言葉にノボリは頷いて、手にしていたカップのコーヒーを飲み干した。すると丁度そこへデントがやってきて、テーブルに置いていた砂時計をひょいとつまみあげてにこりと笑う。
 
「はいはーい!サンヨウレストランの宣伝、大変嬉しい限りなのですが残念ながらそろそろお時間です」
 
「おや、もうそんな時間ですか。早いですね」
 
「ほんとだ。砂時計、からっぽ」
 
「ではそろそろ帰ると致しましょうか。あ、デント様、会計時におすすめのケーキをホールでひとつ、追加でお願い致します」
 
「あ!と、それとは別に二つ!季節のゼリーも追加でお願い!」
 
「かしこまりました。ではこの季節旬のとっておき、包ませていただきますね!」
 
 
 ありがとうございました!とデント、ポッド、コーン三人の見送りを受けて、ノボリとクダリは帰路に着いた。もちろん、途中でライモンのバトルサブウェイに寄ることも忘れない。
 
 
 
 
 
「みんなお疲れ様―!差し入れ!持ってきた!」
 
「昨日お話していたケーキバイキングに行ってきましたのでお土産を持ってまいりました」
 
 途端、休憩室に湧き上がる歓声。とは言えさすがに夕方はバトルサブウェイも混む時間帯の為、部屋にいたのはクラウドとシンゲン、それにカズマサとキャメ ロンの四人だ。いつもの様にバトル待機中のようで、それぞれポケモンたちのコンディションをチェックしたり、デスクワークを軽く持ち込んだりと作業をして いたが、ノボリとクダリの二人が入ってくるとすぐに中央にある共同のテーブルの上を片付け始めた。
 
「おはようさん!まさか買うてくるとは思わんかったわ」
 
 そう言いながらも嬉しそうに笑うクラウドを見て、クダリもにっこりと笑った。
 
「あそこまで盛りあがったらせっかくだし買わないとって思って!皆におすすめしたいっていうのもあったし」
 
「まぁでも今回買ったケーキは私たちも初めて食べる種類ですけどね」
 
「だいじょぶだいじょぶ。あそこのケーキはずれないから!」
 
「あ、ボスたちどれくらい切り分けますか?」
 
 いつの間にか人数分の食器を用意してすでに食べる気満々のカズマサはナイフ片手にいそいそと箱をオープン。ケーキの外観をみてわぁ、と声を漏らした。
 
「すっごいきれいですねこれ!上にのってるのモモンですか?」
 
「お前な…遠慮てもんをしらんのか……」
 
 呆れているクラウドの横でキャメロンは一人爆笑中だ。声を押し殺しつつも肩が大きく震えているのが丸分かりである。
 
「あっははははは!カズマサのそういうとこ嫌いじゃないよ!あ、ぼく5cmね」
 
「え、ちょ、クダリ、それは大きすぎます。皆さんの分足りなくなりますよ、がまんなさい。カズマサさん、わたくしたちは2.5cm程で結構ですのであとはお好きに皆さんで分けてください」
 
「黒のボス細か!えーっと2.5cmってこれくらいかな…」
 
手際よくケーキを切り分けると用意しておいた皿の上にさくさくと乗せていく。
 丁度人数分切り終えて、今居るメンバーの分だけ皿に取り分けたところで、いつの間にやら部屋の外に退避していたキャメロンが戻ってきた。
 
「ハー、笑ッタ笑ッタ。オ腹痛イ。」
 
 まだ若干の余韻を残しつつも先程まで座っていた椅子に戻るとキャメロンはテーブルに突っ伏した。
 
「おかえりキャメロン」
 
「おかえりなさいまし」
 
「オカエリナサイ」
 
「あ。キャメロンさんの分これです」
 
「ほい、これやな」
 
 分けといたで。とカズマサから受け取ったお皿をクラウドが差し出すと、ケーキを受け取ったキャメロンは嬉しそうな顔をする。
 
「イヤー、疲レタ時ニハヤッパリ甘イモノダネ。カズマサノセイデ変ナ体力使ッタヨ」
 
「ちょ、それどういうことですか」
 
「ソノマンマノ意味ダケド」
 
 キャメロンさんひどい!そう抗議を上げるカズマサに、面々はどっと笑った。
 
 ひとしきりケーキを堪能し、雑談に話を咲かせつつゆったりとしていたところでぽつりとクダリが一言。
 
「バトルしたくなっちゃった」
 
 それを聞いて、ノボリも同感だというように頷く。
 
「私も丁度同じことを考えてました」
 
 久々の休みではあるけれど、逆にそれはそれで調子が狂うのだ。もともとバトル好きである事と、最近二人の腕にかなうような挑戦者が来ていなかったことが 相まって、抑えきれなくなってしまったようだ。これほどワーカホリックという言葉が似合う人物を知らないと、鉄道員の面々は思った。また彼らはこの場で二 人のバトル相手に立候補するほど身の程知らずでもなかった。二人の言葉に反応したが最後。色々な意味で負けである。
 メンタル面が大きく影響してくるポケモンバトル。お気に入りの店のケーキも食べて、上機嫌且つ充分な睡眠もとれたサブウェイマスターにフリーのバトルを申し込むなどとんでもない。
 以前にもこうして休憩室でぼやいていた二人にクラウドは聞いたことがある。バトルならば二人でやり合えばいいではないか、と。すると返ってきた返答はこ うだった。曰く、すでに日頃から二人でのバトルはしているからマルチでいつもとは違う相手に挑みたいと。その流れで、だから相手をお願い、とシンゲンと二 人でボス二人に挑まされたのは懐かしい思い出だ。それはそれですごく楽しかったしバトル後の反省会もやらされた為、勉強にもなったのだが互いの手の内を 知っているが故本気以上のバトルを強いられるので大分消耗するのだ。こちらも万全のコンディションで望まないとつらいものがある。
 
 反応したら終わり、という気まずい空気の中、各々のコーヒーや紅茶をすする音だけが室内に響く。内心冷や汗たらたらである。
 
 そこへがちゃり、と音がして、勢いよく休憩室の扉が開かれた。
 
「あー、ボスが休みの日は手加減しなくていいから気が楽だー」
 
「そりゃそうさ、誰だって。まぁその分負けられないからプレッシャーはあるけどな」
 
 トトメスとラムセスである。一同が集っているところを見とめると揃って首をかしげた。
 
「あれ?ボスたちどうされたんですか?」
 
「今日は休みのはずじゃあ…」
 
 それに対してクダリはにっこりと笑い、ノボリまでもが微笑みを浮かべる。いつもはにぶいカズマサでさえ、これは終わった、と思った。
「今日ぼくたち、ケーキ食べに行ってきたからお土産買って来たんだ」
 
「この秋の新作なんだそうですよ。すごくおいしいんです。もし召しあがりたいのであれば、私たちとバトルを。手加減無しのバトルをお望みなのでしょう?」
 
 ケーキ、というお宝の前にスポット配置されたボスキャラクターは強大だった。遠慮しますー!と悲痛な叫びを上げてバトルフィールドに引きずられていく二人に対し、カズマサは内心合掌した。
 
「僕タチ、ボスノ気ガ変ワル前ニケーキ食ベトイテヨカッタデスネ…」
 
「マッタクダ」
 
 シンゲンとキャメロンが呟いて、休憩室にもとあった静けさが舞い戻る。さて、仕事するか。と彼らは何事も無かったかのようにそれぞれ自分の仕事に戻っていった。
 
 今日もギアステーションは平和である。 

2012/10/07

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